既存のアスペクトの理論的研究の問題点として、①動作性述語に由来する助動詞(ヌ・ツ)と動作性補助動詞の分担関係や、②補助動詞などの文法化した形式と動作性動詞(完全な自立語)との移行関係についての研究が不十分なこと、③「物語時」「表現時」という区分が不十分なこと、④韻文資料についての扱いが不十分なこと、⑤「地の文」「会話文」の区別や「虚構」のテクストの取り扱いについて不十分なこと、がわかった。 ②については、アスペクトの研究史上重要な論点をまとめた中で、特に補助動詞によって表されるアスペクト形式に加えて、体言的な形式によって表されるアスペクト形式についても研究が必要なことを述べた。「降り始めだ」のような体言的な形式については今後より深く研究を進める予定である。また〈現在進行中〉というアスペクトについて言語類型論的な考察が必要なことを述べた。体言的な述語の持つアスペクトについて、「元気でいる」のような形式についてその意味論的考察を行った。 ③については、「物語時」が1つにとどまらず複数存在しうることを述べたほか、「表現時」規定を修正すべきことを指摘した。 ④については、例えば具体的な成果として、現代の詩歌において「~てゆく」という表記は散文同様「~ていく」に比べて稀だが、流行歌の歌詞では思いのほか「~てゆく」が多用されていることがわかった。 ⑤については「虚構」をより正確に把握するため「仮託」と「扮装」の区別を提唱した。
|