現代日本語語彙の主要な要素である漢語語彙は、幕末明治期の欧米語との接触、翻訳の中で大きな変化を遂げている。福岡市の九州大学筑紫文庫に収蔵されている、J.H.ガビンスが明治22年から25年にかけて編集刊行した大型対訳辞書である『漢語英訳辞典』には当代の漢語語彙が豊富に収録されており、貴重な語学資料となっている。 今回の研究課題においては、(1)『漢語英訳辞典』漢語語彙データベースの作成、と(2)『漢語英訳辞典』漢語語彙データベースを活用した幕末明治期の対訳辞書資料群の語彙調査、を主たる目標として作業を進めた。 まず(1)については、学生アルバイトの入力補助を仰ぎ入力作業を行い、おおよその基盤となるものを形づくることができた。ただし、完成版とするにはさらなるデータ修正と入力項目を追加した部分の補完入力等の作業を今後も継続する必要があり、現在個人でその部分の作業を鋭意進めているところである。 次に(2)については、『漢語英訳辞典』漢語語彙データの一部を活用して課題研究の期間中全体で4本の論文をまとめるに至った。いずれも明治期の対訳辞書資料群の漢語語彙の動向をサンプリング調査の手法で、明治極初期のいわゆる第一次英学ブームと明治期10年代後半~20年代にかけての第二次英学ブームの時期において調査分析を加えたものである。 これらの作業と分析を進め得たことで、今後『漢語英訳辞典』の漢語語彙群を大規模に活用して近代日本語語彙研究をさらに進める足場を確実に築くことができた。 残された課題としては、『漢語英訳辞典』漢語語彙データベースのバージョンアップに向けての入力作業の継続と、また一方で今回の課題研究作業におけるノウハウを活かした他の対訳辞書資料の語彙データベースの作成、例えば九州大学筑紫文庫蔵の『漢英対照いろは辞典』といった貴重な語彙資料のデータベース作成が挙げられよう。
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