研究課題/領域番号 |
23520562
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研究機関 | 熊本県立大学 |
研究代表者 |
米谷 隆史 熊本県立大学, 文学部, 准教授 (60273554)
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キーワード | 節用集 / 色葉集 / 色葉字集 / 聚分韻略 / 和名集 / 日葡辞書 |
研究概要 |
本研究は、主に、17世紀初頭に九州で書写された A 諫早文庫蔵江戸前期写『節用集』と、B 慶應義塾図書館蔵元和6年写『色葉集』 について、(イ)文献方言史資料としての定位 を行い、(ロ)室町末から江戸前期の辞書観の検討を進めるべく計画したものである。24年度は次の5点を進める計画を立案した。(1)A・B両本の成立文化圏の調査 (2)B本の系統上の位置づけの明確化 (3)A・B両本における九州方言的特徴の検証 (4)地域性を有するとされる古辞書の書誌調査と画像収集 (5)口頭発表の実施 各項の実績の概要は次の通り。 (1)B本について、書写地である高千穂地域の文書や典籍の残存状況等を同地において確認を行った結果、近世中期以降の所持者であった西家一族が、宝永期には在延岡ではあるものの高千穂への来訪が少なくないことなどが明らかになった。 (2)B本について、同系統である東京大学国語研究室蔵の天正二十年写『色葉字集』とともに、色葉集や和名集諸本の辞書本文との対照を進め、系統的位置づけを試みた。その結果、『北野天満宮蔵逸名古辞書』等に類似する面も存するが、むしろ、比較的独立した系統として位置付けるべきものであることが明らかとなった。 (3)A本については、『日葡辞書』がシモの語と注するような九州方言的な語は必ずしも多くないことが明確となった。B本については、九州方言的な語の存在に加え、ロドリゲスの『大文典』が九州地方の特徴として指摘するオ段長音のウ段音化が顕著であること、これらの語例は、比較的頻用されるような語に多いことが明確となった。 (4)国文学研究資料館・阪本龍門文庫・天理図書館・刈谷市図書館等にて関連古辞書の書誌調査並びに画像データの収集を行った。 (5)西日本国語国文学会にて口頭発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概要(1)のA本の成立文化圏に関する調査は、所蔵元担当者との調整がつかず遅れたままとなっている。一方、B本に関しては、付帯的な情報ながら、近世の伝来とその所持者に関する事蹟、延岡における居所まで判明したことは、同書の九州の辞書としての資料的位置づけを改めて強化するものであった。また、これに加えて、A・B本と同じく付訓に地域性の反映が存する『聚分韻略』伝本等の旧蔵者についても、自治体史の記載から、新たな知見を得ることができた。 (2)については、B本と『色葉字集』の二本が、同時代のイロハ分類体辞書の中では比較的独自性が強い辞書群であることがはっきりしたことで、研究の手順として両本の対照調査を第一にすべきことが明確となった。 (3)については、A・B両本とも、当初予定の『大文典』や『日葡辞書』などの同時代資料に基づく地域性の確認は大略終了し、『聚分韻略』諸伝本や『色葉字集』等、研究構想時には想定していなかった資料群に存する地域性を検証する段階に進んでいる。 (4)広島大学蔵『和名集』の撮影が未実施であった他は、順調に必要資料の収集を進めることができた。なお、阪本龍門文庫蔵『聚分韻略』は、同文庫が資料撮影を許可していないことから、書誌調査と主要部分の加筆付訓の転記にとどまったのは残念であった。 (5)西日本国語国文学会での研究発表おいては、これまで進めた古辞書の地域性を援用することで、現在の方言分布上には見られない語についても、九州方言と推察しうる事例の検討を行うことができた。 以上のように、諫早図書館及び広島大学における書誌調査に遅れが存するものの、A・B両本の内部的な検討が順調に進んでいる他、『聚分韻略』諸本の加筆付訓をはじめとする地域性が存する新たな事例の発掘、それらを踏まえた語誌研究の進展などもあることから、全体としては順調に進んでいるものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)所蔵元との日程的な調整がつかなかったことで24年度に完了できなかった、諫早図書館所蔵の古辞書及び関連資料の閲覧調査、広島大学図書館蔵『和名集』の撮影を、24年度の執行残額を使用して実施する。また、阪本龍門文庫蔵本等、各地方版『聚分韻略』の加筆付訓調査を継続する。 (2)これまでに地域性を見出してきた節用集・色葉集・和名集・聚分韻略等について、音韻面・語彙面・表記面のいずれにその特徴が顕著であるかを整理し、各辞書群の傾向を探る。また、その傾向が有する意義について、各辞書の旧蔵者の階層や使用目的を念頭においた総合的な分析を行う。 (3)古辞書に地域性が反映することの辞書史的な意義、地域の言語史を研究する際の古辞書活用の意義をめぐって、口頭発表と論文の公開を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
(ア)物品費(2万円)1万円以下切り捨て(以下同)/勤務校に不足している方言・古辞書関係書籍の購入を主とする。 (イ)旅費(19万円)/諫早図書館・広島大学・阪本龍門文庫等での文献調査に充てる。 (ウ)人件費・謝金/該当なし (エ)その他(4万円)/古辞書の複写・紙焼き写真購入費用を主とする。 (オ)合計(25万円)
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