『いろは字』や諫早文庫本節用集について知られていた通り、室町末から江戸初期に九州で書写・刊行された古辞書の付訓には、同地の方言が反映している例が存する。本研究において、当該期の辞書類を博捜して調査を行ったところ、文明13年薩摩版・享禄3年日向版『聚分韻略』伝本への加筆部分、元和3年以前書写『継忘集』、元和6年写『色葉集』にも、九州方言の特徴であるオ段長音のウ段長音化や、九州方言語彙の掲載が見られることが明らかとなった。この結果と他地域における事例を併せ考えると、当該期の辞書諸本において方言の反映が目立つのは、代表的な辞書とされる節用集ではなく、色葉集や和名集と呼ばれる辞書群であるといえる。
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