東北方言には広い範囲にハ行唇音の痕跡がある。しかし衰退も著しく,典型的な唇音を残す話者は,実際にはごく少数に限られてきている。本研究では,それらの諸相を単に音声上の特徴として見るばかりでなく,視覚的な口唇形状の面からも捉えることにより,その実像に迫ろうとした。調査の結果,当方言には典型的な両唇摩擦音が残存する一方,口唇形状の面からは,さらに円唇~非円唇にかけての諸段階が分類されること,それと同時に唇歯摩擦音の段階,平唇的な摩擦音の段階などがみとめられることが明らかとなった。これらによるならば,東北方言におけるハ行唇音の分布(痕跡)は,これまでに言われてきた以上に広範であることが示唆される。
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