本年度は、1.新潟県佐渡市姫津 2.長崎県壱岐市勝本町 で方言臨地調査をおこなった。 佐渡は西日本方言と東日本方言の境界に位置し、独特のアクセント体系を有している。今回の調査で、当該方言の動詞活用形のアクセントは、アクセント素性よりも、できあがりの語形の長さが重要であるという特異なものであることが明らかになった。こうしたタイプのアクセント活用は三国式アクセントの地域にもみられるが、その内実は大きく異なり、異なる系譜に属するものであることがわかった。 壱岐は、語幹がiで終わる弱変化動詞(上一段活用動詞)のうち、語幹が1音節のものがe終わり(下一段活用)に変化しているという点で特異な活用体系をもつことが知られている方言であるが、今回の調査でそうした特徴が、生産性は失っているものの、語彙的には残存していることが確認された。 3か年にわたる本研究では、新潟県佐渡市姫津、静岡県浜松市三ヶ日町、岡山県笠岡市真鍋島、香川県多度津町高見島、高知県土佐山田町、長崎県壱岐市勝本町 という、活用・アクセント活用の点で特に顕著な特徴を有する方言について、動詞・形容詞の活用形を網羅するかたちでの精密な臨地調査をおこなうことができた。 その結果、特にアクセント活用については、従来知られていない特異な機構の体系を多く発見することができたが、これらは、名詞のアクセントを中心に考えられてきたアクセント体系の系譜論に大きな変更を迫るものである。一方で、語尾のアクセント上のタイプが3種にわかれること、ある種の接辞はアクセント素性について透明であることなど、日本語諸方言に共通する性質も明らかになってきた。活用についてもその変異条件を概観し、系譜を構想することがほぼ可能となったといえる。
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