研究課題/領域番号 |
23520571
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研究機関 | 福山大学 |
研究代表者 |
磯貝 淳一 福山大学, 人間文化学部, 准教授 (40390257)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 日本語史 / 書記史 / 仏教漢文 |
研究概要 |
本研究は、日本撰述の仏教漢文の発掘・翻字データの作成を行い、当該ジャンル資料の日本語書記史における位置づけを探ろうとするものである。特に、これまで日本語学の研究対象とされることの少なかった仏教記録類を仏家の書記活動の一つに位置づけ、当該期における仏家の書記の実態を総合的に明らかにすることを目指している。 平成23年度は、京都・高山寺の所蔵にかかる「済暹」「覚鑁」撰述資料を中心とした注釈資料の原本調査を行い、翻字本文の作成と使用漢字のデータベース化の作業を進めた。現在までに調査を終えているのは、覚鑁撰「心月輪秘釈」「密厳浄土略観」、済暹撰「顕密差別問答」の各資料である。 また、仏教記録類の資料発掘については、現在目録類を使用しての調査対象資料の選定を行っている段階である。ただし、仏教漢文書記史を日本漢文全体に位置づける上で必須となる俗家側の資料との比較を行うための準備として、古記録における言語事象の調査研究を進めた。具体的には、900年代から1400年代に成立した古記録、および700年代から1500年代に成立した古文書における判定要求の表現形式「~否」と共に使用される疑問助字の調査を行った。その結果、室町期における「歟」の使用が、それ以前の古記録には見られない特徴として認められること、またこのことは、日本語疑問表現の史的変遷の一つである「問い」的表現から「疑い」的表現への流れを背景とした変化と関わるものである可能性を指摘し得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度は資料調査を中心に研究を進めた。高山寺所蔵の「済暹」「覚鑁」関係資料について、計3回の原本調査を行った。現在までに翻字本文を作成完了しているのは覚鑁撰「心月輪秘釈」「密厳浄土略観」、済暹撰「顕密差別問答」の各資料である。これら諸文献については、使用漢字の情報に基づいたデータベース化を進めている。このことによって、特に注釈活動を中心とした僧侶の漢字使用について、調査を進める基盤を整えつつある状況である。 今年度調査の中心となった上記資料は、仏教の教義に関わる注釈資料が中心となるものであった。仏教漢文書記史を描く上で、重要な位置づけとなる仏教記録類については、目録類を中心に調査対象資料の選定、現存状況の確認を行っている段階である。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度と同様、高山寺経蔵における文献調査、及び仏教漢文における言語事象の実態調査を中心に研究を進める。 平成23年度は、予定していた調査1回分を実施することができなかったこと、購入予定であった電子書籍の刊行が当初の予定よりも遅れたこと等の事情により、次年度使用の研究費が生じた。平成24年度は、文献調査のフィールドを広げること、前年度調査を行うことができていない仏教記録類についても文献調査を行うこと、の2点を中心的な課題として研究を進める。また、これまでに調査を行い得た諸文献について、相互に比較を行うための漢字データベースの作成を本格的に開始することとする。
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次年度の研究費の使用計画 |
中心となるのは文献の原本調査にかかる費用である。今年度と同様の調査地として、京都高山寺経蔵における調査を3回実施する予定である。また、各地寺院、図書館等において補助的な調査も行う。これらの原本調査が直接にかなわない場合、複写資料の購入を行い研究資料の拡充に努める。 また、原本調査から帰納される言語事象の実態を、より広い範囲の資料において位置づけていくために、日本漢文関係の影印・翻刻等の資料を購入することとする。
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