研究課題/領域番号 |
23520573
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
上田 雅信 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 教授 (30133797)
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研究分担者 |
藤田 耕司 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (00173427)
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キーワード | 古典的エソロジー / 因果律 / 理想化 / 言語の起源・進化 / 狭義言語機構 / 連続性の誤謬 |
研究概要 |
研究代表者・分担者ともに、MPの生物学的な特質の明確化を中心に研究を行った。研究代表者はTinbergen(1964)が明確にした動物行動学(ethology)の方法論との比較に基づいて、生物学の一分野としての生成文法の方法論の特質を考察した。特に、Tinbergen (1964)の設定した4つの問題とChomsky (1995)が設定している5つの問題の間に観察される違いが、ともに生物学的研究でありながら、理想化の性質が異なっているために生じていること、特に、近代科学に特有の説明様式である因果律をMPは現在のところ説明原理の一部としていないことを明らかにした。ガリレオの落体の法則は、因果律を含まない法則であったことから、MPの理論は、この特徴に関してむしろ、近代科学の初期の理論と同じ性質を持つものであることを明らかにした。また研究分担者は、自説である「統語演算能力の運動制御起源説」をさらに裏付けるために人類考古学的考察を進めたが、その中で、これまでMPが採用してきた「狭義言語機構(FLN)・広義言語機構(FLB)」の区別が、人間と他の動物の認知能力の間の進化的連続性を同一性と混同する誤謬(「連続性の誤謬」)に基づいていることを指摘し、Mergeを含め言語を構成するすべての機能が人間固有であること、しかし進化的にはそのすべてが他の動物の機能と連続性を保っており進化研究にとってはそれが重要な手掛かりとなること、従ってFLN/FLBの区別を排除しこれを超越しなければ、MPは言語進化の正しい理解に到達できないということを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者及び研究分担者による、MPの哲学的・概念的分析がほぼ計画通り進んでいるため。
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今後の研究の推進方策 |
23年度~24年度の研究代表者と研究分担者それぞれの研究成果を総合して、生成生物言語学の哲学的基盤と方法論および現在までの形成過程を明らかにし、生物学的に見たMPの展開に明確な指針と方向性を提示する。特に、生物学の哲学における分野形成の哲学的分析をモデルとして、生物学的概念が言語研究と統合されて生物言語学が形成される過程を分析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度はさらに科学哲学、生物学の哲学、生物言語学関係の文献を購入する他に、学会などでの発表やワークショップ開催のための旅費や謝金などの経費として使用する予定である。 昨年度、行うことを予定していた学会発表やワークショップの開催を延期したために未使用となった経費は、今年度も、学会発表やワークショップの開催などのために使用する予定である。
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