本研究は、比較構文等の意味論的分析において有効とされている「度合い(degree)」や「計量(measurement)」と呼ばれる概念が比較構文ばかりでなく、言語の広範囲な領域に関わっていることを実証的に検討し、特に英語と日本語について「度合い」概念を用いて文法全体を組み直す試みであった。 「研究目的」に列挙した諸現象のうち、(a)段階的形容詞・副詞の意味解釈に関しては、平成24年度に「分離AP構文について」を秋孝道(編)『言語類型の記述的・理論的研究』(新潟大学人文学部)にて発表した。これは名詞を前置修飾する形容詞の補部が、被修飾要素である名詞の後ろに生起する現象を扱ったもので、そのような不規則的な現れ方が許されるのは、その補部が形容詞が内包する段階性の比較に関して「比較基準」を粟原ストできあるとの記述的一般化を主張したものである。この現象自体の研究はそれほど多くはなく、今後の研究を促す触媒になった点で意義があると考えられる。 また、「研究目的」の(m)「~すぎる」という過剰を表す構文については、平成25年度に"A Phonologically Empty Degree Adverb: A Case Study from a Verb of Excess in Japanese" 菊地・小川・西田(編)『言語におけるミスマッチ』にて発表した。これは「~すぎる」が付加した表現が多様な意味を表すものの、「段階性」の観点からすると、付加対象にも、それによって得られる解釈にも一定の制限があることが分かり、その制限を統語的・意味的に捉えるため、「~すぎる」の文には「段階性」に関わる音韻的に空の要素が存在することを主張したものである。「~すぎる」構文についてはいくつかの有望な分析があったが、そのいずれよりも記述的・説明的に優れていると考えられる。
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