研究概要 |
本研究の目的は、イディオム解釈の仕組みについて、関連性理論の観点から認知的分析を試みることにある。字義通りの意味から離れたイディオムの意味が、聞き手によっていかに解釈されるのか、関連性理論における「アドホック概念構築」の枠組みに基づいて分析し、イディオムという句レベルでの解釈において、アドホック概念構築という語解釈のための推論プロセスがどのようにかかわっているのか検討を行った。平成25年度は、部分的に分解されたイディオムの構成要素の意味が、イディオム全体の意味にどの程度貢献しているかに基づいた「分解可能性」という概念を援用しつつ、アドホック概念の「転嫁的用法」と「語彙的拡張」の観点から、イディオムの解釈プロセスについて分析を行い、岡田 聡宏・井門 亮 (2014)「省略語・イディオム解釈とアドホック概念」『言語・文化・社会』第12号, 1-29,学習院大学外国語教育研究センター.にその成果をまとめた。 本研究を通して、イディオム解釈には、復号化に加え、語レベルだけでなく句レベルでのアドホック概念構築という推論プロセスがかかわっていることが明らかになった。どのレベルでアドホック概念が構築されるかについては、関連性理論で提案された解釈の手順によるが、そのイディオムの分解可能性も影響を与えているものと思われる。さらに、解釈の際に構築されるアドホック概念については、「転嫁的」なものと「拡張」されたものとが考えられる。いずれのタイプのアドホック概念が構築されるにせよ、その解釈プロセスは、他の表現と同様に、関連性理論による解釈の手順に従って進められる。つまり、最小の処理コストで十分な関連性が得られるような解釈にたどり着くまで解釈が進められ、関連性の期待を満たすようなレベルに達した段階で、解釈が打ち切られることになるのである。
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