本研究は英語統語論を、中世に焦点を当てて捉え直すことで、その歴史的変遷をより分かり易く例証することを目指した。それによりゲルマン本来の性質を残す古英語と、ノルマン・フレンチ、古ノルド語等の影響を受ける中英語との間の統語的継続を重視し、ラテン語文献の翻訳・抄訳・自由訳により培われた書きことばの伝統が、9世紀から13世紀まで形態的変化を受けながらも統語的には受け継がれていたことを、現存するテクストを綿密に調査することで証明しようと試みた。古英語と中英語の「過渡期」という概念は学者により異なるが、古英語後期から中英語初期をつなぐ詩編注釈・説教集・年代記等に、その継続と変遷の跡を見ることができた。
|