研究課題/領域番号 |
23520579
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
中村 芳久 金沢大学, 歴史言語文化学系, 教授 (10135890)
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キーワード | 認知言語学 / 言語進化 / 主観性 / 外置 / 認知モード / 文法化 / ストレンジ・アトラクター |
研究概要 |
3年継続の研究の2年目であるが、次の3点で大きな進展を見せた。本研究の中心論点は、認知モードの展開、とりわけIモードからDモードへの展開が言語進化に深く関与しているというものであるが、進展の①第1点目は、IモードとDモードについて、脳神経科学と認知科学からその存在根拠となるデータを得ることができた、という点、②第2点目は、言語進化あるいは文法進化には文法化の作用が大きく関与しているが、その文法化プロセスが複雑適応系のストレンジアトラクターと密接にかかわることが明確になった点、③第3点目は、人間の言語を決定づける文法化(すなわちHaine and Kutevaの提唱する文法化プロセスの第4層から第5層への文法化)が、IモードからDモードへの展開を基盤とするストレンジアトラクターであることが判明した点、である。 以上の論点は、部分的にあるいは総合的に以下の6つの形式で発表され、また発表が決まっている。①平成24年10月の日本英文学会北海道支部大会シンポジウム、②平成25年2月のペンシルベニア州立インディアナ大学の講演("Types of cognition, types of language and language evolution)で発表され、好評であった。③また上記成果の概略はKanazawa English Studies 28に「認知モード・言語類型・言語進化」として掲載される。さらに④3大学における、院生、教員を含む集中講義(群馬県立女子大学、愛知県立大学、奈良女子大学)でも、その詳細が発表され、活発な議論が展開された。本論点の中心部分は、より洗練された形で、⑤第12回国際認知言語学会(25年6月カナダ、エドモントン)と⑥2013年CRAL意味構築についての国際会議(25年7月スペイン、ラ・リオハ)で発表されることが決まっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
言語進化研究は、尋常ならざる学際的な状況にあり、これを無視することはできないが、本研究では(言語の断片的知識に基づくのではなく)、言語の通言語的、通時的研究、あるいは言語の対照的・類型論的研究に基づく言語の総合的知見を中心にして、認知言語学・認知文法の観点から、論理的に妥当な言語進化・文法進化の仮説を提示することを目標としていたが、24年度の研究で、文法化が複雑適応系のストレンジアトラクターと看做せることが判明したことは、本研究の目的に合致した、大きな進展であった。人間言語の中核は文法であり、その文法は文法化によって構築されるが、その文法化が、複雑適応系においてカオスから秩序が創発する際の道筋(ストレンジアトラクター)に相当することが判明したのである。したがって諸言語に見られる無数の文法化のうち、繰り返し生起する同類の文法化群が、人間言語の中枢をなす文法生成の道筋であり、それゆえ人間言語の生成のメカニズムの本質だということである。カオス状態の語彙群から、この種の文法化群によって、人間言語の体を成すようになるというわけである。この観点は、言語の現段階の状態がなぜそのようであるのかを説明する点で、単に言語進化の理論であるだけでなく、言語の複雑な仕組みを説明する共時的な言語理論でもあるために、この観点の発見は、言語を総合的に捉え、その上で言語進化をも捉えようとする本研究の中心部分を、大いに進展させるものであったと言える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、①本研究を取り巻く研究群の総括、②その残された課題の解消、③新たな展開、からなる全体的な研究(認知モードと言語)の、とりわけ③を中心とするものである。その③では、新たな展開として「認知モードの観点から言語進化を考察する」というものである。6月と7月に予定されている2つの国際学会で、②と③について議論する予定である。また現在編集中の研究書では、2つの章を担当し、一つの章は上の①②を扱うが、もう一つの章で、これまでの研究成果を踏まえて③を詳細に論じる予定である。この研究書は10月に出版予定である。国際学会では、海外の研究協力者と意見交換を行い、本研究の内容について、議論を詰める予定である。国内の秋の学会では、これまでの研究を発表する場を非公式に設け、論点を深めていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度使用予定額500,000万円を、物品、図書として、100,000円、旅費として300,000円、その他として100,000円使用する。
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