研究課題/領域番号 |
23520581
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
田中 智之 名古屋大学, 文学研究科, 准教授 (20241739)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 定形節 / 目的語 / 動詞 / 語順 / フェイズ |
研究概要 |
英語定形節における動詞と目的語の語順変化、特に「目的語・動詞」語順の消失に関するPintzuk and Taylor (2006)の調査を補完するために、初期近代英語の電子コーパスを用いて調査を行った。肯定目的語については、初期近代英語第1期(1500~1569)の韻文テクストの一部で「目的語・動詞」語順がある程度の頻度で見られたが、その割合は中英語第4期(1420~1500)に引き続き1%未満であるので、「目的語・動詞」語順は15世紀以降は非文法的であったと結論付けられる。一方、数量目的語と否定目的語については、初期近代英語第1期における「目的語・動詞」語順の割合はそれぞれ2.3%と3.8%であるので(その後は1%未満となるが)、16世紀中ごろまでは「目的語・動詞」語順は文法的であったと考えるのが妥当であろう。 以上の調査結果について、二重基底部仮説に基づくPintzuk and Taylor (2006)の方針を踏襲しつつも、Fox and Pesetsky (2005)における統語構造の線形化のシステムを取り入れることにより理論的説明を試みた。まず、肯定目的語はフェイズのエッジを経由しないA移動の適用を受けるので、「動詞・目的語」基底語順からの目的語の左方移動は不可能である。したがって、「目的語・動詞」基底語順が消失した15世紀以降は、肯定目的語が動詞に先行する語順は許されなくなった。一方、数量目的語と否定目的語はフェイズのエッジを経由するAバー移動の適用を受けるので、「動詞・目的語」基底語順からの目的語の左方移動が可能である。したがって、「目的語・動詞」基底語順が消失した15世紀以降も存続したと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
英語定形節における動詞と目的語の語順変化に関する、現時点では最も体系的・包括的な研究であるPintzuk and Taylor (2006)の成果を踏まえて、彼女らがカバーしていない初期近代英語の調査を行うことにより、英語定形節における目的語の分布の変化についての全体像を明らかにすることができた。また、Fox and Pesetsky (2005)のシステムを取り入れてPintzuk and Taylor (2006)の分析を修正することにより、英語定形節における「目的語・動詞」語順の消失に関する理論的説明が可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
以上の成果を踏まえ、英語不定詞節における目的語の分布の変化について、目的語を肯定目的語、数量目的語、否定目的語の3つに分類して調査を行う。Moerenhout and Wurff (2005)等の断片的な情報によれば、不定詞節では「目的語・動詞」語順が16世紀まではある程度の頻度で見られるので、そのような調査結果が出た場合には、これまでの定形節に関する研究成果に照らして、なぜ不定詞節では「目的語・動詞」語順が遅くまで保持されていたのかという問題について理論的説明を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費の支給額の確定や支給時期の問題があり、今年度の前半は研究および予算執行計画が立てにくかったので、次年度に持ち越した研究費がある。今年度はあまり図書や資料を購入することができなかったので、次年度は持ち越した研究費を含めて図書や資料の充実を目指したい。また、出張旅費、および出張に必要となる物品の購入費も確保しておきたい。
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