研究課題/領域番号 |
23520581
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
田中 智之 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (20241739)
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キーワード | 不定詞節 / 動詞 / 目的語 / 語順 |
研究概要 |
英語不定詞節における動詞と目的語の語順変化については、Van der Wurff (1999), Moerenhout and Van der Wurff (2005)における断片的な情報しかないため、電子コーパスを用いて、古英語から初期近代英語における不定詞節、特に上記の研究において「目的語・動詞」語順が遅くまで保持されていたとされる、顕在的主語を持たないコントロール不定詞節における目的語の分布について調査した。その結果、数量目的語と否定目的語はデータが少ないために数値のばらつきがあるものの、肯定目的語、及び目的語全体のデータから、不定詞節では定形節とは異なる目的語の分布の変化が観察される。 第一に、肯定目的語については、後期古英語(950-1150)と中英語第1期(1150-1250)を除けば、定形節よりも不定詞節の方が「目的語・動詞」語順の割合が全体的に高いことが分かった。第二に、初期近代英語第1期(1500-1569)において、肯定目的語と目的語全体のデータにおける「目的語・動詞」語順の割合はそれぞれ1.7%と2%であるので、16世紀中頃まで「目的語・動詞」語順がある程度の頻度で見られることが分かった。ちなみに、肯定目的語の1.7%という数値は、特定の韻文テクストに「目的語・動詞」語順が集中しているからであるが、同じ条件の下で定形節の約2倍の頻度を示している。その後、初期近代英語第2期(1570-1639)になると、不定詞節において「目的語・動詞」語順の割合が1%未満となるので、16世紀後半にはほぼ消失したと考えられる。この消失時期は、Moerenhout and Van der Wurff (2005)の16世紀散文の調査結果と一致するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
英語不定詞節において「目的語・動詞」語順が遅くまで保持されていたとする断片的な情報を踏まえて(Wurff (1999), Moerenhout and Wurff (2005))、古英語から初期近代英語における不定詞目的語の分布を調査し、その歴史的変遷の全体像が明らかとなった。また、定形節と不定詞節において、目的語の分布の変化に顕著な違いがあることも判明した。
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今後の研究の推進方策 |
以上の研究成果を踏まえて、英語史における不定詞目的語の分布、特になぜ定形節とは異なり、不定詞節では「目的語・動詞」語順が16世紀中頃まで存続していたのかという問題に取り組む。これまでの当課題の研究において、肯定目的語を伴う定形節において「目的語・動詞」語順が消失したのは、14世紀中に「動詞・目的語」基底語順に一本化されたからであるとの結論に至った。これが正しいとすると、不定詞節において「目的語・動詞」語順がその後も保持されたのは、「動詞・目的語」語順からの目的語の左方移動が可能であったからであると分析される。不定詞節が経てきた構造変化を考察しつつ、なぜそれが可能であったのかを、最近の生成文法理論におけるフェイズ、及び統語構造の線形化の概念に基づいて説明を試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究課題の最終年度であるが、資料調査、及び研究成果を取りまとめるための海外出張を予定している。また、言語理論や英語史に関する文献は毎年多く出版されるので、最新の情報を入手するために物品費はある程度確保しておきたい。その他例年通り、国内出張費、及び研究遂行に必要な図書以外の物品費も必要になるであろう。
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