研究課題/領域番号 |
23520582
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大森 文子 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 准教授 (70213866)
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研究分担者 |
渡辺 秀樹 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 教授 (30191787)
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キーワード | 認知 / 感情 / 概念メタファー / コーパス / 英詩 / 辞書 / 慣用表現 / 対義 |
研究概要 |
平成24年度は、これまでに進めてきた英語感情メタファーの認知構造に関するコーパスデータの解析に基づく考察をまとめた “Conventional Metaphors for Antonymous Emotion Concepts” と題する論文がPeter Langから刊行された感情研究の論文集Dynamicity in Emotion Conceptsに掲載された。本論文は、<喜び><悲しみ><希望><絶望><恐怖>の5つの個別感情を表す語が自然現象を指す語と前置詞ofで結びつくタイプの慣習的メタファー表現をBNCより収集、分析し、対義概念関係にある感情概念のペアの対立が、用いられる根源領域の相違の観点から特徴づけられること、一般的に対義とは認識されていない感情ペアの対義関係が根源領域の相違の観点から特徴づけられること、一般的に類義語とは見なされていない感情どうしの類義関係が写像の類似性の観点から明らかになることを示したものである。また、大阪大学大学院文学研究科に提出した博士学位申請論文 “Metaphor of Emotions in English: With Special Reference to the Natural World and the Animal Kingdom as Their Source Domains” が審査に合格し、博士(文学)の学位が授与された。本論文は、感情を理解するための概念メタファーの構造と写像の仕組を、大規模コーパスのデータ、英詩などの文学作品、辞書などの小規模コーパスに記載された慣用表現を研究対象として探究したもので、本論文で提唱した、従来の研究には見られなかった新たな認知モデルの学術的価値が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、本研究課題のここまでの研究成果が、国際的にも認められ、また博士(論文)の学位が授与されたことから、従来の認知メタファー論研究が用いてきた内省に基づく直観的データではなく、日常言語や文学の言語として実際に用いられた生のデータを観察、分析するという研究方法の妥当性の高さを確認することができ、ここまでの研究により提示した新たな認知モデルおよび感情メタファー写像の構造の特性を、本研究課題遂行のための骨組みとして位置づけることができた。学位論文の一部に示したMiltonの長編叙事詩Paradise Lostを対象とした感情メタファーの事例研究の成果については、大阪大学大学院文学研究科より招聘されて平成24年10月に開催された阪大英文学会で発表したが、言語学研究者のみならず、Milton研究者をはじめとする多くの英米文学研究者より高い評価を得て、学際的観点からも本研究の意義を確認することができた。日常的・詩的な表現群の綿密な分析により、辞書などで明確に定義されていない、あるいは研究者の内省において明確に意識されていない概念どうしの関係を明らかにすることができ、本研究課題遂行のための確固たる手がかりを得た。以上の点で、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、研究代表者(大森)と研究分担者(渡辺)がそれぞれコーパスデータおよび文学作品・辞典類記載データの収集・分析作業を継続するとともに、これまで収集したデータの分析・考察結果について、互いの専門分野の見地から検証しあう予定である。また、研究代表者と研究分担者が過去10年間にわたり共同研究を進めてきた動物の概念領域に由来するメタファー研究の成果を整理、統合し、学術書として刊行するための最終準備を行う。加えて、本研究課題の研究方法に多大な示唆を与えたHans Lindquist著のCorpus Linguistics and the Description of English (Edinburgh University Press, 2009) をテクストとした、研究代表者、研究分担者を中心とする輪読研究会の研究成果を翻訳書として刊行するための準備を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
認知言語学の分野の中でも昨今発展しつつある認知詩学、認知文体論に関連する研究書を中心とする学術研究書および文学全集などを購入し、研究資料の充実を図るとともに、感情メタファーについての幅広い学際的研究の可能性を探るべく、絵画などの芸術分野も含めた研究資料収集のための国内出張を予定している。
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