研究課題/領域番号 |
23520598
|
研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
柳 朋宏 中部大学, 全学共通教育部, 准教授 (70340205)
|
キーワード | 与格経験者項 / 前置詞経験者項 / 格理論 / 英語史 / 生成文法 / 名詞句 |
研究概要 |
本研究の目的は英語史における名詞句の分布について生成文法の枠組みを用いて分析することである。今年度は受動虚辞構文に焦点をあて、生成文法に基づいた分析を行った。中英語から近代英語にかけて観察された受動虚辞構文では意味上の主語は様々な位置に生起可能であった。本研究では、コーパスに基づく調査の結果から、意味上の主語が生起する位置を「法助動詞とbe動詞の間」「be動詞と過去分詞の間」「過去分詞と副詞要素の間」「文末」という4つの位置に分類し、中英語期を通して「be動詞と過去分詞の間」に生起する場合が最も多いことを示した。これに対して、中英語から近代英語にかけて書かれた書簡集では「過去分詞と副詞要素の間」に生起する場合が多かった。このような違いについての詳細な分析は今後の課題としたが、ジャンルの違いと時代の違いがその要因として考えられることを示唆した。また「法助動詞とbe動詞の間」に意味上の主語が生起する場合、中英語コーパスにおいても書簡集コーパスにおいても否定辞もしくは数量詞を伴う名詞句が用いられていた。動詞要素の間に意味上の主語が生起する虚辞構文の存在は、2つの主語位置 (TP と AgrP の指定辞)を仮定する論拠と考えられている。しかしながら、本研究では意味上の主語に否定要素や数量詞を含んでいることが多いことに注目し、2つの主語位置を仮定する必要はなく、当該の虚辞構文は通常の否定名詞句や数量詞名詞句を含む構文と平行的に分析することができると論じた。帰結として AgrP を破棄できることを示した。さらに受動虚辞構文においては法助動詞が存在する場合が多いことから、通常の受動文と比べて主語要素が生起できる統語位置が1つ増え、法助動詞の投射の指定辞が利用できることを提案した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究実施計画の通り、種々の歴史コーパスを用いて研究に必要な言語資料を収集し、中英語から近代英語にかけて観察された受動虚辞構文を中心に分析を行った。研究成果の一部は既にコーパスに関する国際学会で発表しており、現在は内容に修正を加えるとともに、分析の一般性・妥当性を示すために考察対象を広げているところである。完成した論考は雑誌への投稿を予定している。 また、同時に進めている経験者項の統語範疇に関する歴史的変化の研究は、非構造格として語彙格と内在格を仮定する格理論に基づいた分析を行い、成果の一部はスイスのチューリッヒ大学で開催された国際英語歴史言語学会で研究発表を行った。発表時に得られたコメントを参考に修正を加える一方、全体的に該当する用例が少なかったため、より一般的な傾向を探る目的で新たに別の中英語・近代英語のコーパスを加えて、研究を継続している段階である。
|
今後の研究の推進方策 |
受動虚辞構文と経験者項を含む構文の分析に関しては、既に得られている言語資料に加え、使用するコーパスを拡張し新たな用例を収集することに取り組む。分析の一般性・妥当性を示すため、コーパスから得られた資料を整理・分類し、分析を行う。受動虚辞構文については、否定辞や数量詞を含んでいるか等の主語の特性や意味上の主語が生起する統語位置、法助動詞の有無等に基づいて分類し、中英語から近代英語にかけて観察された受動虚辞構文がどのような統語構造であったのか、どのような要因によって衰退したのかについて論じる。また経験者項を含む構文については、与格経験者項と前置詞経験者項が生起する統語位置、経験者項の数・人称、当該の構文が用いられるジャンル等に基づき、それぞれの事例を分類していく。特に経験者項を含む構文で用いられる述語の性質上、1人称経験者項と2人称・3人称経験者項における統語的振る舞いの違いにも注目し、理論的分析を行っていく予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本研究を通して得られた成果の一部は5月に東北大学で開催される日本英文学会第85回全国大会のシンポジウムにて発表することが決定しており、そのための出張旅費として使用する予定である。この学会の他、次年度には定期的に開催される英語史関係の国際学会に加え、名詞句に関連する単発の国際学会も開催されることになっている。こうした学会への参加・発表のため、本年度の予算を繰り越し、次年度の予算と合わせて出張旅費に使用する計画である。また、本年度と次年度の予算を合わせて、諸言語統語論や英語史に関する専門書や海外の学位論文の他、現在刊行されている古英語写本のマイクロフィルムをまとめて購入するつもりである。加えて、本研究で使用する検索ツールの研究事例をまとめた初心者向けの手引書の公開を計画している。
|