現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度である平成23年度の仕事は基礎研究を中心としたが、全体的に順調に進んでいる。有村は、Googleなどのコーパスからの用例の収集に努めた。その結果、N-A形容詞とその基底にあると考えられる前置詞を用いた後位修飾構造との関係は多種多様である(例えば、independent-of、specific-to, dependent-on、free-from: neutral-in)などが挙げられる。しかしこのように前置詞の本来の目的語のNと形容詞との意味関係はかなり多様であり、前置詞句補部を取り得る形容詞だからと言ってN-A形容詞になり得るわけでもなく、次はN-A形容詞を認めない: absolute-to, inevitable-to, devoid-of, fatal-to, paramount-to, unique-to, preferable-to, manifest-in/to, jealous-of, worthy-of, desirous-of。前置詞の目的語DPの語彙主要部であるNが元位置を離れてAと併合するとき、Aに対するどのような制約があるのか、あるいは、その制約がどのような性質を持ったものであるかこれから考えたいと思っている。 また、高橋は現在執筆中の『形態論』(共著:予定)派生・転換・複合語のメカニズムについて解説した。派生については派生語の接辞と基体の結合が下位範疇化素性に基づき形成され、接辞が基体に付加する際に、統語的・意味的・語源的・語種的制約を受けることを示し、転換については意味に基づく分析を語彙概念構造の考え方に従い、転換がどのように形成されるかを説明した。最後に、語彙化と語形成規則の関係は派生語の内部構造の二項枝分かれ構造の有無によるとした。N-A複合語の生成には意味構造を取り入れる可能性も指摘する。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は2年目なので、昨年度の経験的事実の発掘とこれまでの研究のまとめを踏まえて、更に経験的にも理論的にも内容を深めることを目指す。 有村は、先述の通り、N-Aという単一語彙項目(一般的にはA0であるべきもの)の内部構造において統語的操作が関与するという仮定がもたらす言語理論上の問題点を考える。また、経験的問題点として、語彙形成規則に関わる予測の問題が残されている。例えば、theory internal ← internal to the theoryが可能であるが、health desirousは存在しない。internal to …とdesirous to …この違いは何に由来するか? また、高橋はN-A形容詞形成の意味の相違に注目する。そして、日本語と英語の違いについても考察する。日本語のN-A複合語と英語のN-A複合語との関係、更に編入と名詞の認可条件を巡って認可条件の相違について考える。日本語では「腹黒い」「物悲しい」対「*板黒い」「*音悲しい」の差はどうして生じるか?句・文表現では「板が黒い」「犬が苦しむ」「悲しい音」が可能になる。英語のbreathtaking, painstakingとの関係は見られるのかどうか。つまり、人間の換喩(metonymy)表現からの意味的拡張として捉えられるかどうかを検討する。日本語の複合形容詞は由本(1990: 354-356)が指摘していることであるが、Nが補部となるN-A複合語において形容詞がイ形容詞の場合はN-Aとならないがナ形容詞(形容動詞)の場合はN-Aとなることが指摘されている(資源に乏しい/*資源乏しい, 酒に強い/*酒強い, Cf. 仕事に熱心な/仕事熱心な, 関西に特有な/関西特有な)。この仮定をどの程度支持し得るかMiyagawa (1987)に照らして検討したい。
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