本研究においては形態論と統語論のインターフェイスという側面(有村兼彬の研究テーマ)と、形態論と意味論のインターフェイスという側面(高橋勝忠の研究テーマ)から研究を進めてきた。 伝統的な統語論研究において、統語論は語レベルの中に入り込むことはできないとされてきたが、有村は統語論と形態論は密接に関連しており、N+Aから成る「名詞編入複合形容詞」(Noun Incorporated Complex Adjective)を説明するうえで、これまで統語論研究で提唱された原理や原則、例えばKayneの「線的語順対応公理」(Linear Correspondence Axiom)やMoro の「動的反対称性理論」(theory of dynamic antisymmetry)が形態論のレベルにおいてもその効力を持つことを示した。 日本語においても、高橋はN+Aからなる複合語(e.g.油っぽい、男っぽい)と統語的要素を含む複合語(e.g.薬っぽい、嘘っぽい)が形態レベルにおいて違いを示すという事実(i.e.油っぽさ、*薬っぽさ)を指摘し、形態的緊密性(Lexical Integrity)は構造的・意味的に捉えることができることを示した。
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