研究課題/領域番号 |
23520604
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
廣江 顕 長崎大学, 言語教育研究センター, 教授 (20369119)
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キーワード | bare-embedding |
研究概要 |
本年度はまず、廣江(2012)において提案した、直接引用文(direct quote:DQ)はCollins(1997)の主張とは異なり、付加詞節を構成している、との主張をさらに支持する証拠を挙げ議論を行った。その証拠とは三つあり、①英語には目的語の位置に生じているように見えても、実際は付加詞しての統語的ステータスを持つものがある(e.g., He weighs 100 poundsや同族目的語)、②what did John say?の返答としてJohn said that he would leave soonは適切だが、John said, "I would leave soon."は適切ではない、という対比からDQは目的語ではない、③類型論的考察、つまり、日本語の引用文構造と比較してみると、日本語の場合、英語とは異なり、トという引用マーカーを語彙(自由形態素)として持っており、DQを選択する意味特性がない主節動詞(あるいは述部)とさえ結合できる、とするものであり、DQを伴う文構造を考察する際、これまで暗に仮定されてきた通説を覆す意義をもった研究であった。 さらに、本研究の方向性が正しいとすると、DQという付加詞節で「主文現象(Main Clause Phenomena:MCP)」が観察されるのはどういった理由によるものか、という新しい問いを生じさせたことになった。というのも、少なくとも英語の場合、付加詞とこれまで分析されたきた構造(例えば、関係詞節や発話様態動詞(manner-of-speaking verb)と呼ばれる動詞のthat節)ではMCPは観察されないからである。この問題は大きな課題であるが、発話行為動詞(speech act-verbs)のみ許される「裸埋め込み(bare-embedding)」という統語操作を仮定する方向で考察を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で考察する対象としていた範囲は、従来は語用論の領域と考えられている発話行為がそもそも統語構造からどういった形式で写像されているのかということであった。本研究で、統語構造においては付加詞として機能する一方で、概念(意味)構造(conceptual-(semantic) structure)では補部として機能していると仮定することで統語構造との対応関係(インターフェイス条件として)を捉えることが可能となったため、その意味での埋め込み構造を解明した一端がDQの埋め込み構造であったことから、一定程度の成果を挙げていると考えられる。 また、それ以外でも、発話行為動詞が使用され、DQと同様、付加詞節を構成し、MCPが観察される描出話法(Represented Speech)というコンテキストも同様の仕方で捉えられる可能性を示したことも成果として挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は最終年度でもあることから、本研究において取り組んできたDQあるいはRS環境における定形時制文を埋め込む統語操作を「裸埋め込み(bare-embedding:BE)」と名付け、英語における(自然言語における)他の統語的環境下では絶対に生じない、付加詞節でのMCPを捉える試みを行う予定である。 また、同時に、本来的には主節のように発話の力(illocutionary force)をまとえないにもかかわらず、BEという特定の形式の埋め込みが構造的に行われた場合のみ、従属節(あるいは埋め込み節)がLFで[CP, Spec]の位置に移動し、その位置で解釈を受けることにより、主節とは異なる発話の力が埋め込まれることを可能にするメカニズムを提案したい。そのことで、Heycock(2006)の言う「直接引用文前置(direct quote preposing)」がそうしたLF移動が顕在的に行われた派生であるということも併せて主張したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
繰越分の使途予定は、7月の3-5日に韓国ソウル大学で開催される国際学会(2013 International Conference on English Linguistics)で研究発表を行うための旅費と、今年度中に出版を予定している『福岡言語学会40周年記念論文集』(九大出版会)での分担執筆分に充当させる予定である。
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