研究実績の概要 |
複雑適応体系に内在する基本原理の観点から、(1) 語彙体系の歴史的発達とsmall-world network の関係を探り、(2)光トポグラフィーを用いて、言語進化における曖昧性の排除と脳の機能を明らかにした。 (1) 語彙体系の歴史的発達とsmall-world network:Historical Thesaurus of the Oxford English Dictionary (Christian Kay et al., Oxford, 2009)の全動詞について、多義語、同義語、初例、最終例の年代、普遍的概念構造を反映するか否かの情報を盛り込んだdatabaseを作成した。単義語に多義語が加わることにより、語義間の意味が緊密になるsmall world networkが形成されることを明らかにした。本年度は語義体系の中で、普遍的な概念構造から生じた可能性の高い単語(脳が言語を形成する)と他方言語が概念構造に影響を与えた可能性が高い単語(言語が脳を形成する)に分類し、語義体系の中で、普遍的な概念構造から生じた可能性の高い語は多義語であり、語彙の樹状構造の根幹部を形成していることを実証した。 (2) 曖昧性の排除と言語進化:多義語、同音異義語、同義語、中央埋め込み文といった言語の曖昧性が認められる現象には、左方前頭葉前部での大きな負荷、つまり活性化が認められることを、血流の変化をリアルタイムで画像化する光トポグラフィーで実証した。これまでほとんど研究が行なわれていない多義語の意味の曖昧性による左方前頭部前部での活性化と、文脈が与えられることによる曖昧性の排除を、英米人、日本人の被験者で実証した。更に多義語の曖昧性と語順進化の関係を探り、言語が創発した時の語順はSOVの可能性が高いことを示唆した。以上の研究は、知る限りでは国内外で初の研究である。
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