本研究の目的は,日本語学習において,より効率的な聴解を可能にするために,聴解過程の土台となる音声知覚段階に焦点を当て,音声知覚を自動化するためのコンピュータによる日本語音声知覚トレーニングシステムを構築することである。 トレーニング方法としては,音声知覚段階に問題がある,特に「知っているけど聴き取れない」という学習者にとって,既有知識と音声を結びつける必要があることから,音声刺激をそのまま書き取るディクテーションを中心に据えた。そして,昨年度までに録音,作成したコンテンツをコンピュータ上に載せた試作版システムを作成し,学習者の個人差に対応可能なファイル・トランスクリプション形式のディクテーション(教師が音声ファイルを所定のウェブサイトにアップロードし,そこから学習者がPCにダウンロードし,学習者が各自のペースでそのファイルを再生しながら文字に書き起こす)練習に使用して,実践的な検討を継続して行った。 その結果,学習者の音声知覚に改善が見られ,授業内外でのシステムの利用についても見通しと課題が得られた。この間の研究成果については,研究会等で研究発表,報告を行った。そして,これまでに得られたFBをもとに試作版を改善し,「日本語ディクテーション素材集」(丁寧体と普通体による質問文,縮約形等の音変化を含む話し言葉による短文と会話文,格助詞・述語部分・主節部分等を予測・推測するための短文と会話文,日常表現のバリエーションに対応した短文と会話文など)としてシステムの最終版を作成した。最終版をもとに国内外の日本語教育現場において教師と学習者からシステムに対するFBを求めたところ,概ね好評であったと同時に,コンテンツやGUIについてのコメントが得られた。今後もシステムを実践で使いながら,改善していく予定である。
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