本研究では、文章展開機能による文章構造分析への応用と上級日本語学習者のための作文教材の開発を目的として、言語形式の持つ文章展開機能に着目し、日本語教育の学習項目として取り上げられる文型の文章展開機能を連鎖・連接・配列という観点から分析した。文章展開機能とは文法的な言語形式の中で複数の文からなる段落、文章レベルでの意味のまとまりを担うものである。文章論の理論と分析方法に基づき、場面や文脈における文章展開機能を担う言語形式に着目し、大学の授業で収集した作文の構造分析を行い、その成果をもって上級学習者の大学での学術的活動のための作文教材を開発することを目指した 30名分の日本人大学生と200名分の中上級日本語学習者の留学生の作文データベースの完成、および文型辞典に基づく文型リストの作成、文型リストにある文型の日本語母語話者の作文での使用状況の分析を行った。文型辞典3種と作文教科書4種の文型抽出と比較リストからなる文型リストの作成、および連鎖・連接・配列に関わる文型の抽出、それらの文型の作文での使用頻度の分析を行った。作文データベースと文型抽出は当初計画より量を拡大したこともあり、予定していた作文教材開発までは至らなかったものの、教材開発のための文型抽出、作文データベース作成、上級日本語学習者による作文の文型認定、という教材開発のための基礎データは収集することができた。日本語教育で学習項目とされる文型には使用/不使用の頻度の差が大きいものがあり、汎ジャンルの文型は基本文型と認められる。一方、ジャンルや話題などで文型使用の偏りがあり、そのような特定の条件で頻度の高い文型は発展文型として区別すべきである。また、文章構造の関係性である連鎖・連接・配列という観点からの文型分析・記述は作文での文型使用の実態や意味用法の記述に有用であることを明らかにした。
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