本研究は、日本語学習者による助詞「は」の使用における言語転移の可能性を探ることを目的とする。母語の影響の有無をより正確に判断するために、韓国語、中国語、英語という言語類型論的にも異なる3種類の母語を持つグループの日本語によるデータに日本語母語話者のデータを加えた計4グループを対象に同一の調査を行い、学習者と日本語母語話者の日本語を比較した。特に、母語が主題卓越言語である韓国語、中国語を母語とする学習者と、主語卓越言語である英語を母語とする学習者で助詞「は」の使用/不使用の傾向が異なるかどうかに注目をし、①文完成テスト(絵の内容を表す文をキーワードを使用して完成させる)、②内省調査(調査①実施後に、①の作文における「は」と「が」の使用に関して、調査者の質問に答える)、③助詞選択テスト(助詞「は」、「が」、「に」から一つを選んで( )に記入する)の計3種類の調査を実施した。調査は平成23年度から平成25年度にかけて行い、日本語母語話者30名、日本語学習者161名(韓国語母語話者74名、中国語母語話者51名、英語母語話者36名)のデータを収集した。日本語学習者には、上記の①~③の調査のほかに、SPOT(Simple Performance-Oriented Test)のA版を実施し、その点数によって日本語能力の上位群と下位群に分類した。平成26年度には、これまでに収集したデータをまとめ、それぞれのタスクにおける「は」の使用について、被験者の母語別の傾向の分析を行った。また、同年度中に、研究成果の一部を日本語教育関係の学会で発表した。本研究により、助詞「は」の使用傾向が学習者の母語背景(主題卓越言語/主語卓越言語、主題マーカーの有無)によって異なる可能性が示された。また、本研究とは異なるタスクを用いた予備調査とは一部異なる結果が得られたことから、タスクの種類が母語転移の現れ方に影響を及ぼす可能性があることを改めて示すものとなった。
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