平成25年度はデータの分析をさらに進めるとともに,引き続き語彙知識の語形と意味に焦点をあてたカタカナ語の聞き取りテストと意識調査を行い,データを収集した。これまで対象としてきた韓国語母語話者と中国語母語話者に加えて,これらの母語話者とはカタカナ語に対する意識に違いがあると先行研究で指摘されている他のアジアの学習者としてタイ語母語話者にも同様の調査を行い,三者の比較を行った。その結果,聞き取りにおいては,いずれの母語話者も表記の正確さは意味の理解度より正答率が低く,既習であると考えられる語彙であっても受容知識として語の意味は理解できても必ずしも正しく表記することができる産出語彙としては定着していないことが明らかになった。共通した結果がある一方で,母語の音韻体系の影響などによって難易度が異なる語もみられた。また,意識調査の結果においても母語によって傾向に違いがあり,カタカナ語に対する難しさに関して,中国語母語話者は「難しいと思わない」と答えた回答が四割を超え,中国語母語話者が最もカタカナ語に困難さを感じるとする先行研究とは異なる結果となった。これは,今回の対象者が平均10年を超える英語学習歴を持った大学生であるという背景に起因するのではないかと考えられる。個々の学習者に合わせた効果的なカタカナ語の学習・指導を検討するためには,母語や英語学習暦など学習者の背景を考慮することが重要であることが示唆された。 このような研究成果について,「韓国語・タイ語・中国語母語話者に対するカタカナ語の聞き取りと意識調査」(日本語教育学会秋季大会,2013年10月)として発表を行った。また,韓国語母語話者を対象として指導の効果を検証し,「韓国語母語話者に対するカタカナ語の指導の試み-聞き取りテストと意識調査より-」(『言語文化と日本語教育』45号,2013年6月)としてまとめた。
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