最終年度は、当初の実施計画に基づき、1.音韻的作動記憶と聴解力・語彙力との関連の検証、2.研究成果の公開を中心に研究を行った。 1は、台湾の教育機関において前年度9月に開始し、その後3ヵ月ごとに追跡調査を行ってきた調査の一環である。9ヵ月に渡る全4回の調査では、入門期に音韻的作動記憶の能力を測定し、その後は聴解力と語彙力を測定した。その結果、聴解力と語彙力のいずれにおいても、入門期の音韻的作動記憶の能力との間に、学習開始から3・6・9カ月後の全ての調査時において、0.3程度の弱い正の相関がみられた。すなわち弱いながらも安定した関係がみられるといえよう。2に関しては、国際学会の口頭発表、論文執筆、報告書の作成など複数の方法を用いて結果の公開に努めた。 研究期間全体を通しての成果は以下の通りである。 語彙力や文法力の蓄積が少ない入門期および初級学習者の聴解力を測定・推測するための方法の開発と聴解の基準構築を行い、学習者に対する学習方法の提案、指導者に対する聴解の指導方法や聴解力測定の課題作成への提案に繋げることが目的であった。まず、音韻的作動記憶の能力を測定する非単語反復課題の精度を高めた。続いて日本在住の学習者と中国語を母語とする台湾在住の学習者を対象として調査を行った。入門期に測定した音韻的作動記憶の能力と、その後の聴解力や語彙力との関係を追うことで、非単語反復課題がその後の聴解力や語彙力を推測する基準となり得るのか否かを検証した。その結果、日本在住の学習者において聴解力を推測できる可能性が示唆されたが、語彙力はそうではなかった。入門期に非単語反復課題を行い、聴解力の伸びが期待できない学習者を把握して、早期の段階からの支援が可能になることを提案したい。台湾在住の学習者においては聴解力も語彙力も推測できるほどの強い関係は示されなかった。この違いについては今後検討していきたい。
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