本研究の目的は、コンピュータを介した相互作用的コミュニケーションで、議論の構造に影響する要因と、議論を交換することの影響を分析し、社会的合意形成の道具としてのオンライン・コミュニケーションの設計と改善を手助けすることである。平成26年度は収集したデータの分析と論文の執筆、発表を行った。 分析の結果は、大きく二つの論文(論文1、論文2)に結実した。論文1のテーマは、コンピュータ上で議論の交換を行う際、個人の議論の構造が認知的要因によってどう影響を受けるか、である。認知的要因とは、(a)議論を肯定的に捉える特質、(b)問題への関心、(c)議論の質を評価する能力、(d)自分の意見に対する自信、(e)意見の強さである。共分散構造分析の結果、これら要因が相互に関係を持ち、結果的に議論の構造(直接・複雑―間接・簡潔)に影響を与えることが判明した。(a)と(b)が議論の構造に及ぼす効果のみを検証した従来の研究に比べて、本研究ははるかに良い説明率を示し、議論の構造を作る仕組みの解明を更に進めることに貢献した。また、論文2はオンラインで交換した議論が個人の認識にもたらす影響を評価するため、(1)個人の意見と(2)自分の意見に対する自信、がどう変化するかという問題に焦点を当てた。特に、(a)他の人々と自分との意見の相違、(b)問題への関心、(c)自身が議論を行うかどうか、が上記2つの変数にどう影響するかを検証した。その結果(a)と(b)との相互作用効果がみられた。すなわち、(a)が大きいと、意見を変更しやすい傾向が見られるが、特に(b)が低い人々にその傾向は顕著だった。また、(a)が大きいと自信も減少しやすいが、特に(b)の高い人々にその傾向があった。更に、自身が議論を行うことは(b)が低い人々にとっては意見の変更を抑制し、(b)の高い人々にとっては自信の低下を抑制する効果を示した。
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