研究課題/領域番号 |
23520667
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
奥村 圭子 山梨大学, 留学生センター, 教授 (10377608)
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キーワード | 異文化コミュニケーション / 異文化適応 / 短期交換留学 / 受入れ・派遣 / PAC分析 / 留学の意義 / 文化受容 / 留学生支援 |
研究概要 |
研究代表者の勤務大学でも、教育の国際化を目指し、学術交流協定書に則り、海外の大学と短期交換留学生を相互交換している。本研究課題の目的は、異文化間心理学、言語教育の統合的視点から、1、派遣・受入れ生たちはいかに文化を受容し異文化適応をしているかの認知構造の分析の為のPAC分析(内藤1993)とインタビュー調査を通して、認知面、情動面、そして態度・行動面を考察し、2、留学から2年経過した段階で、国際的な人材育成の視点から留学の意味と意義を改めて問い、3、有意義な交換留学派遣と受入れの促進に直結した留学前ガイダンスや事前・事後指導、そして異文化間教育の参考となるデータを収集し発信すること、の3点である。4年にわたっての本研究課題の2年目である2012年度には、以下の研究活動を行った。 1、認知構造の分析であるPAC分析を行うにあたり、留学開始時、留学半ばの時点、留学終了時向けの連想反応を得る刺激文を微調整した。2、2012年8月31-9月1日の英国日本語教育学会で受入れ学生1名の異文化適応のケースの報告を行った。3、2011年9-10月来日の協定大学A、B、Cからの受入れ生5名とAに派遣された2名に対して、昨年度に続き、PAC分析3(留学終了時)を基にしたインタビューを行った。4、2012年4月来日の協定大学Dからの受入れ生3名、10月に来日したA、B、C、Eからの8名、及び新たにAに派遣された2名とDとEに派遣された各1名を含む全員にPAC分析1(留学開始時)、全受入れ生とEへの派遣生にPAC分析2(留学半ばの時点)を行った。5、派遣生には、毎月マンスリー・レポートを記述してもらい、許可を得て分析の参考資料とする。6、3と4の文字化を進め、異文化適応に影響する要因を集団要素と個人要素に分類し、現在個人要素に注目した分析を進めており、2013年夏の学会で発表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ほぼ、計画通りに行われている。 1、昨年度の反省から、データ収集後速やかに文字化作業を行うようにし、かなり改善され、分析資料の準備は円滑に進んだと言える。2、当初研究計画ではSkypeやテレビ会議で行うインタビューを予定しており、試行したが、時差の問題、またネット環境の良し悪しにかなり左右されるため、効率的であるとは言いがたかったため、対面式でPAC分析とそれに基づいたインタビュー調査を継続して行っている。3、PAC分析の作業のうち連想項目の入力などについてはインターネットを介してやり取りが可能であろうという感触を得た。4、英国日本語教育学会で発表したケースでは、非常に興味深いプロセスが観察できた。①被験者は、留学開始時に自立や新しい経験を中立的、もしくは否定的なイメージで捉え、それらが将来に役立つ経験となるであろう、と漠然と留学の意義を語っていた。②留学半ばの時点では思い込みによる縛り、そして理解し難いメンタリティーや文化差に苦しみ、苛立ち、それが行動・態度面にも影響を及ぼし、自分から人間関係の構築を放棄した。③しかしながら、文化差などは簡単に自分で変えることができない、メンタリティーの違いはホスト側の人間の責任ではないという認知面からの変化がおこり、それを契機としてトラウマを徐々に乗り越え、留学終了時近くの調査では、自己成長、違いの許容、自分の経験の開示などを通して、文化受容をして最後を楽しく過ごしたいという意欲、そしてホスト側の人々をもそのまま受入れようという前向きな姿勢が示された。5、4のような異文化適応プロセスのケースの蓄積により、留学生教育、異文化間コミュニケーションや留学前教育などへの有意義な示唆が得られるであろう。
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今後の研究の推進方策 |
1、2013年度は一昨年度、昨年度に続き、現在の調査協力者については調査を継続する。それとともに、新たに2013年5月にアジアの協定大学Fへ派遣予定の学生、そして2013年度秋にFから本学へ留学予定の3名も調査対象とし、この研究課題では初めてアジアの協定大学との交換生の調査を開始することによって、これまで対象としてきた欧米からの受入れ生、そして欧米への派遣生の異文化適応プロセスとの比較を行うことを考えている。 2、PAC分析、クラスター分析に関する研究、そして異文化適応や異文化間心理学関連の文献調査を行い、参考とすべき研究法、分析法を検討する。 3、調査に関し、海外の大学への派遣生とのコミュニケーションの改善を検討する。 4、2013年夏には英国の学会で欧米への派遣生についての異文化適応プロセス、特に個人要素にかかわる分析結果を発表の予定である。そして今後も学会発表、論文での成果発表を通して、日本語教育、異文化間教育、異文化間心理学の研究者との交流を通し、知見を広める。 5、来年度以降の調査協力者の留学後2年経過時点の調査に備えて、提携大学の受入れ・派遣担当者、及びこれまでの調査協力者と円滑な情報交換を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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