研究課題/領域番号 |
23520700
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
金子 育世 順天堂大学, スポーツ健康科学部, 准教授 (00360115)
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キーワード | 第二言語習得 / 日本人英語学習者 / 感情表現 / スピーキング / ライティング / 言語特性 / 習得過程 / 発表的技能 |
研究概要 |
日本人英語学習者のライティングとスピーキングに観測される感情表現・感情的プロソディとそれらの習得過程を観測するため、それぞれ生成実験を実施した。ライティングにおいては、感情の中でも「不満」に着目し、感情表現が自然な形で多く使用されると考えられる「手紙」という形式を用いた。海外滞在経験のない日本人大学生と英語母語話者を被験者として、「不親切なスタッフがいることについて、図書館に対して苦情を伝える」という課題のもとで手紙を書かせ、日本人被験者の感情が日本語と英語でどのように表現されるかを観測した。手紙の長さ(文字数)、感情表現を中心とした使用語句の難易度、構文の複雑さ、手紙のパターン等を分析し、米語母語話者のものと比較した結果、日本人英語学習者においてライティング熟達度とTOEICスコアとの相関関係や、感情表現の習得度とTOEICのスコアの相関関係を示唆する傾向が観察された。また、英語母語話者による手紙とは異なる英文のパターンも観測された。Martin & White (2005)によって提案されたアプレイザル理論を用いた分析も行い、日本人英語学習者と英語母語話者の感情表現の言語特性を機能言語学の観点から比較、検討している。 スピーキングにおいては、昨年度実施したライティングの実験で収集した資料から感情表現を含んだ文章(テキスト)を選び、日本人被験者と米国人被験者それぞれに音読させ、録音した。録音した音声資料に関して、音声波形、スペクトログラム、イントネーションカーブを作成し、日本人英語学習者の音声と米語母語話者の音声を音響学的に比較・分析した。また、英語母語話者の感情的プロソディから分析語を特定し、ピッチ高低差、持続時間、強度を計測し、日本人被験者の音声と英語母語話者の音声の比較を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、昨年度(平成23年度)にライティングにおける感情表現とその習得過程を観測し、今年度(平成24年度)にスピーキングにおける感情表現とその習得過程を観測する予定であった。しかしながら、ライティングの生成実験による英文資料を分析する方法として新たにアプレイザル理論による評価法を加えたことや、ライティングの実験をより効果的にするため課題を再検討したことなどにより、計画よりもライティングの実験と分析に時間が掛かってしまった。スピーキングの生成実験においては、音読させる実験文の選定に時間が掛かってしまい計画通りに進めることが出来なかった。
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今後の研究の推進方策 |
平成23、24年度に実施したライティングの生成実験で得られた文字言語資料と、平成24、25年度に実施するスピーキングの生成実験で得られる音声資料に関して、(1) 日本人被験者によって書かれた英文資料をライティング指導の経験を持つ教師が読み、採点する、(2) 日本人被験者によって書かれた和文資料を日本語母語話者が読み、採点する、(3) 日本人被験者の英語音声資料を米語母語話者が聴き、単音(segment)、プロソディ、感情表現、全体的印象の4項目について、10点満点で採点する、(4) 日本人英語学習者の日本語音声資料を日本語母語話者が聴き、感情表現と全体的印象の2項目について、10点満点で採点する、という4種類の方法で評価実験を実施する。 上記の実験結果を包括的に分析し、ライティング能力とスピーキング能力との関係を検討する。また、「懇願」と「不満」の感情表現の言語特性と、先行研究で扱った「愛情」と「哀悼」の感情表現の言語特性を比較・検討する。 さらに得られた結果をとりまとめ、成果の発表を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度に実施はしたが計画通りに進めることが出来なかったスピーキングの生成実験を、次年度に継続して行うことを計画している。本年度から次年度へ繰り越した研究費は、被験者となる日本人英語学習者と英語母語話者に対する謝金、実験実施の補助や言語資料の分析補助に対する謝金として使用する予定である。
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