米語母語話者と日本人英語学習者を被験者として音声生成実験を実施し、第一言語および第二言語としての英語によるスピーキングに表出する感情的プロソディにおける類似点と相違点を観測した。感情の中でも「懇願」と「不満」に着目し、平成23、24年度のライティング実験において英語母語話者によって産出された英文手紙をもとに作成した実験文を被験者に読ませ、音声資料とした。全被験者の音声資料において、音声波形、スペクトログラム、イントネーションカーブを作成し、米語母語話者が強調している語・節を分析語として特定した。分析語は、ブースター表現、語彙表現、依頼表現という3種類の表現に分類し、ピッチの高低差、持続時間、強度を計測した。さらに英語母語話者による聴取評価を実施し、日本人の英語音声における単音、プロソディ、感情表現、全体的印象という4つの側面を5段階で評価した。日本人学習者の感情表現においては、プロソディの中でもピッチの使用がより重要となることが示唆された。 上記の音声生成実験の実施および分析に加え、ライティング実験において日本人英語学習者により産出された英文手紙と和文手紙を、機能言語学の枠組みから提案されたMartin & White (2005) のアプレイザル理論を用いて分析し、それぞれの文字言語における感情表現の言語特性を観測、比較した。平成23、24年度の分析において日本人被験者の英文手紙には米語母語話者の手紙に観察されるものとは異なる言語的特徴が観測されたが、この特徴は日本語による手紙に観察される特徴とも異なっていた。同一被験者による感情表現であっても第一言語と第二言語においては言語特性が異なることが示された。
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