研究課題/領域番号 |
23520709
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
川崎 貴子 法政大学, 文学部, 准教授 (90308114)
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研究分担者 |
MATTHEWS John 中央大学, 文学部, 教授 (80436906)
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キーワード | 音韻論 / 第二言語習得 / 音声学 / 音声知覚 |
研究概要 |
音韻の第二言語習得では、音声知覚マップが母語の知覚に最適化されたものになっている為、L2の音声知覚の際に注意を払うべき手がかりが活用されないことが明らかにされてきた。 (Iverson, et al 2003) すなわち、L2学習者の音声知覚は母語の音韻構造による制約を受ける。平成23年度の研究では、第二言語習得の知覚において,学習者は母語のカテゴリにしばられた音韻的知覚のみを行うのではなく、詳細な音声的手がかりに注意を払い、知覚を行っていることを明らかにした。この結果は母語の音韻カテゴリーが第二言語の音声知覚をどのように阻害するのかに着目してきたL2音韻研究の中ではあらたな発見であったと言える。 平成24年度の研究ではL2学習者の音声レベルの細かな手がかりの利用について、更に研究を進めた。平成23年度には異なる母音環境での弁別成績を比較したが、24年度は異なる2つの実験手法を利用し、調査を行った。 今年度行った最初の実験では,英語母語話者は音韻知覚に利用しないとされている(Tabain, 1998)母語話者の7,000Hz 以上の高周波数帯域の摩擦雑音情報が, 日本語母語話者の英語の摩擦音知覚に利用されているかどうかを調査した.その結果, 日本語話者は英語の母語話者が弁別に使用していない高周波数帯域の情報を弁別に使用していることが分かった. また、二つ目の実験では、母音から子音への移行手がかりをL2学習者がどのように利用しているのかを調べる弁別実験を行った。この母音-子音への移行手がかりの実験では、日本語を母語とする英語学習者が英語の子音連続の知覚をする際に、微細な移行手がかりに注意を払っていることが明らかになった。 これら24年度の実験は、L2音韻カテゴリ形成に至る前の学習者が、音声的手がかりの利用を行っていることをサポートするものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度に得た実験結果を精査し、分析したところ、第二言語学習者が詳細な音声手がかりが聞けないのではなく、むしろターゲット言語に適切ではない音声手がかりに注意を払っているのではないかと考えられた。そしてむしろ様々な(適切なものもそうでないものも含め)音声手がかりを利用するというのは、音韻カテゴリーが形成できていない段階の学習者の知覚ストラテジーと言えるのではないかと考えられた。よって、その仮説を確かめる為、24年度は23年度の実験結果の再分析、および異なる手法による追実験を行った。 平成24年度は当初予定した発話実験には至っていない。しかし、これは23年度に得られたデータを再分析し、生まれた仮説の検証のために知覚実験を継続することが望ましいと考えたことによるものである。これらの実験は、L2音韻習得の知覚のメカニズムを明らかにするため、必要なものであった、24年度の一連の実験・分析により、L2音韻知覚における仮説をサポートする結果が得られたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年度となる25年度には、音声知覚・音声産出両方の研究を進めたいと考える。25年度前半には、L2音声知覚の際に音声手がかりの利用について、SuperLabを利用した、23,24年度とは異なる手法の実験を行うことを予定している。23年度~25年度の一連の実験結果をまとめ、母語の音韻知覚モデルとL2音韻知覚の違いを明らかにしたい。 また、後半には音声産出についての実験を行い、第二言語音韻モデルの構築に向けて研究を進める予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度の研究結果の発表のため、また音韻・音声習得研究についての手法を学び、様々な国の研究社と意見交換を行うため、平成25年度前半には海外出張を予定している。具体的には5月半ばにモントリオールで行われる New Sounds 2013 に三日間、参加する予定である。 25年度には発話実験・および知覚実験のための謝金・研究補助の為の謝金の支出を予定している。また、実験構築を行うためのソフトウェア、SuperLab のバージョンアップデート、そして必要に応じてデータ分析のためのソフトウェア、JMPの購入予定している。
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