研究概要 |
日本国内での幼児期・児童期の週数時間の限られた英語のインプットが、音声知覚にどのような長期的な影響を及ぼすかを、日本人英語話者にとって困難とされる/l/と/r/の聴取実験により検証した。早期の限られて音声インプットでも、成人になってからの聞き取りに有益である(Larson-Hall 2008)という結果がある一方、普通の状況での聞き取りでは早期英語学習には何の影響もないが、ノイズ下での聞き取りでは早期学習者が有利になる(Lin et al. 2004)という先行研究があり、限られたインプットでの早期英語学習が後の音素知覚にどのような影響を及ぼすかは、未だ明らかではない。さらに、ノイズのみならず、英語学習者は、話者の違いにも大きな影響を受けやすいとされている(Bent, Kewley-Port, Ferguson, 2010)。そこで、本研究では/l/と/r/の音素識別テストをノイズがある悪条件下で行い、さらに様々な話者が発話した音声を聞かせ、音素識別能力を多角的に調査した。語中に/l/と/r/を含む無意味語(例:ala, ara)を使い、6人の話者の音声を、SNR比0 dBと8 dBのノイズと合成し、それぞれの無意味語をAAB, ABA等の順で聞かせ、その中から違った音素を含む語を一つ選択させた。英語母語話者10名、早期学習者25名、中学校からの学習者25名が聴取者として参加した。結果は、早期学習者が有利だという先行研究に反して、中学校から英語学習を開始した大学生のほうが、/l/と/r/の音素識別能力が統計的に高いことが判明した。さらに、早期学習者は、中学校から学習を開始した者と同様に、ノイズや話者の違いに大きな影響を受けていた。この結果は、限られた英語のインプットでは、早期英語学習を行っても、音素識別に利益をもたらさない可能性があることを示唆している。
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