このプロジェクトでは、人間の言語学習を実験室内の統制された条件下で調べるため、短期間で学習できるミニチュア人工文法を用いた研究を行った。日本国内において人工文法を用いた研究は盛んでなく、また、研究代表者自身も未経験だったので、研究期間の初期には、まず、人工文法学習パラダイムを用いた過去の重要な研究を網羅的に調査した。その成果として、国際的な学術誌に最近の人工文法学習パラダイムに関するレビュー論文を掲載した。次に、日本人の大人(大学生)と子ども(未就学児、小学生、中学生)を、同じ人工文法の学習において比較する実験を実施した。自然言語の獲得では、学習者の年齢が違えば学習方法や学習環境も違ってくるが、この実験では異なる年齢の被験者が同じ学習方法・環境で、同じ人工文法を学習した。この実験をまとめた論文を海外の学術誌に投稿したところ受理されなかったが、最終年度にこの論文の大幅な修正を行い、海外の別の学術誌に再投稿した。その結果、リビジョンとなったので現在、改訂に取り組んでいる。ここまでの内容に関しては目標を達成出来たと考える。一方、人工文法の脳内処理を探る脳機能計測研究も計画していたが、満足の行く成果は得られなかった。用いた脳機能計測手法(事象関連脳電位)、被験者集団(成人および子ども)、および今回の研究テーマの全てに最適な人工文法が、デザイン出来なかったことによる。また、研究代表者の大学間の異動があり、職務内容や研究環境が大幅に変わったことも影響した。人工文法を用いた研究パラダイム自体は有効な手法であると思われるため、今回の経験を踏まえて、今後、より良いアプローチを模索して行きたい。
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