研究課題/領域番号 |
23520761
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研究機関 | 武蔵野音楽大学 |
研究代表者 |
篠塚 勝正 武蔵野音楽大学, 音楽学部, 講師 (40528775)
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研究分担者 |
窪田 三喜夫 成城大学, 文芸学部, 教授 (60259182)
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キーワード | 脳内言語処理 / NIRS / 通訳訓練 / クイック・リスポンス / シャドーイング / 言語変換 / 前頭葉 |
研究概要 |
今年度は、英語教育としての言語変換を伴う通訳訓練時の脳の賦活状況を検証する実験を行った。言語変換時の脳の研究は先行研究は非常に少なく、この研究結果は、有意義なものと考える。以下に記す2つの実験は大学学部生を参加者とし、使用した脳機能イメージング機器は、前頭葉の賦活を計測するNIRSのOEG-14(Optical encephalography:Spectratech社製)である。 実験1. 参加者へのタスクは、聴覚入力時直後の①日本語⇔英語の単語、②英⇔日の数字を有声化しない(声に出さず、頭の中で言語変換する)Covert production(Quick response)で、 脳血流の賦活状況の①と②間で比較した。なお、実験後、行動実験として、言語変換の出来、不出来を口頭質問したが、全て出来たとの回答を得た。①の結果は、日⇔英言語変換時の前頭葉の賦活は、聴覚入力後、日英共に約4ー5秒後であった。②の数字に関しては、賦活は入力後7-8秒後に高くなることから、単語の変換より、数字の変換の方が、時間的に遅れる可能性が判明した。通訳時には、単語、数字を同じタイミングで処理する必要がある。よって、数字変換を単語変換と同様な早い処理には、Quick responseによる数字変換の繰り返し訓練の必要性が示唆される。 実験2. 日本文の聴覚入力における、Shadowing VS Repetitionであるが、脳の賦活に差異が認められなかった。これは、Repetitionタスク遂行中に、その意味内容を一時的に記憶保持するためにsubvocalization、つまり、Covert shadowingを無意識にした結果によるものと思われる。このことは、ワーキングメモリの音韻ループ上にある短期記憶庫に一時的に記憶保持しようとした参加者の実験後の回答からも明確になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今までの研究の進捗及び達成度、自己評価が、概ね順調な理由を以下に期す。特に、脳の刺激語の親密度合及び、聴覚入力とCovert productionの出力の文字数によって、脳の賦活状況が大きく異なるため、その選定を慎重に行った手続きを主に記載する。 日本語→英語の際の日本語単語の刺激語は3~5シラブル(Mean:3.75)で、英語へのシラブル数 は、全て5とした。根拠は、シラブル数の差異が、脳賦活の異なった影響の回避のためである。英語→日本語の際の英単語の刺激語は、英単語の刺激語は2~3シラブル(Mean:2.5)で、日本語へのシラブル数は、全て3とした。 英語⇔日本語の親密度合は、5~6に合わせた。この理由は、日本語、英語の親密度合に差異がある場合、正確な賦活度合が計測できないからである。なお、英語の親密度合は、『日本字英語学習者の英単語親密度合』(横川他, 2008)を、日本語の親密度合は、『NTTデータベースシリーズ 日本語の語彙特性第5巻 単語親密度』(天野、近藤編著, 2005)を使用した。ともに、1が親密度合が低く、7が一番が高い。日本語の親密度合の平均は、6.13で、英語は、6.15で日英共に差異がないものを厳選した。 数字に関しては、日→英の際は、英語のCovert productionのシラブル数は3に、英→日では、日本語のそのシラブル数は6に統一した。根拠は、上記の単語同様、文字数による脳の賦活における差異の回避のためである。なお、刺激の数字は、英日ともに、馴化による脳の賦活への影響を考慮し、実験ですべてダブルことがない数字を選んだ。 以上、刺激語の選択には、脳の賦活に別の要因が混入しないように、最大限、予備調査を行ったので、研究目的及び結果の達成度合いは高いと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究を促進するために、以下に期すことに留意し、実験を滞りなく遂行する。 1. 実験参加者の増員である。今回の実験の参加者の他に、5人程度を実験を行う。 2. 実験参加者に、現役通訳者を計画書通り含めるものとする。 3. 計画書通り、NIRSのみならず、先行研究の非常に少ないEEG(脳波)との同時測定により、脳の賦活状況と脳細胞レベルの時間的反応を一度に測定する。 4. Shadowing時の、脳の賦活状況の実験では、新たに、①Shadowing VS ②Shadowing+構音抑制とし、②-①=shadowing時の脳の賦活及び、脳反応時間の成分を差分法を使う。 以上、1~4を滞りなく行い、通訳訓練法時の脳内賦活及び、脳細胞の時間反応を綿密に調べ、同時に、通訳訓練法が、脳科学的にいかにして英語教育に寄与できるかの示唆を出す。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の主なる研究費の使用額には、現役通訳者に対する謝礼金、及び、EEG使用時のジェル、センサー、分析ソフト、アンプなどの備品などの購入にあてる。
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