本研究は、英語コミュニケーション活動のための言語教育Teaching English for Communicative Purposesの確立を目指して、2つの目標を立てた。最初が、コミュニケーション学の専門家による「日本人のための段階別英語プログラム」の構築である。今まで「コミュニケーション学」と言った場合、システム論や機械的コミュニケーションの延長としての対人コミュニケーションというとらえ方が多すぎた。しかしながら、近代を「市民社会が形成され、個々の構成員に権利と責任が生じた時代」としてとらえた時には、日本に「コミュニケーション教育の思想」と呼ぶべきものが欠如していることは明らかである。「道具」、「機械」を近代のキーワードと考えるのではなく、「個人」、「自律」が近代を規定するキーワードととらえた議論が、求められている。つまり、「功利主義」や「効率」を第一義とする思考を脱却して、市民社会の構成員として「公的な徳」や「社会的な善」を指向するような態度が要求されるべきなのである。 目指したのは、1960年代にすでに時代遅れであると指摘されていた知識偏重・暗記重視型の一方通行型教育 (one-sided education) への処方箋である。今、生徒一人一人に考えさせる余地と、他の生徒との交流を持たせる学習 (co-operative learning) の必要性が示されている。グローバリゼーション化、マルチメディアとネットワーク発展を背景として、コミュニケーション教育には、他人の経験・意見・議論を理解した上で、自身の文化から離れて新たに第3の文化を創り出し、他人に社会的なストーリーを語れるようにするためのコミュニケーション教育の方法論を確立する使命が、課せられている。特に、英語教育において、日本が国際化社会に対応して、さらに国際社会の構成員の一員として積極的に貢献できる人材の育成という任務を担っている。
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