研究課題/領域番号 |
23520788
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
小倉 佳絵(高光佳絵) 千葉大学, 人文社会科学研究科(系), 助教 (10334591)
|
キーワード | アジア太平洋 / アメリカ / エドワード・カーター / 太平洋問題調査会 / ホーンベック |
研究概要 |
本年度は、コロンビア大学で実施した史料調査(昨年度)に基づき、エドワード・カーター「太平洋問題調査会(IPR)」国際事務局長の海外視察の分析を行った。 カーターは、IPR最盛期に長期(1933~46年)にわたって国際事務局長として指導的立場にあった。カーターによる海外視察は1934年以降、ほぼ毎年実施され、1939年末までの6年5ヶ月のうち、実に2年7ヶ月が海外視察に費やされている。その訪問先は、アジア・太平洋地域にとどまらずヨーロッパを含む世界各地に及んだ。 カーターは、IPRという民間団体の国際事務局長であるにもかかわらず、海外視察では各国首脳に会見する機会を容易に得ることができた。たとえば、1934年の最初の視察において、オランダのコレイン首相、日本の広田外相に面会している。これは世界情勢に対して積極的に関わろうとしないアメリカ政府にカーターを通じて影響力を行使したいと考える諸外国政府の思惑のためであった。 カーターは、外国政府首脳との会談において、アメリカへの、そして、自身への期待を感じ取ると、旧知のホーンベック国務省極東部長を通じて自らアメリカ国務省へ接近を図った。しかし、ホーンベックはカーターを情報源として利用する一方、IPRとは慎重に距離を取り、IPRがアメリカの目的増進するために操作されている組織だと疑われないよう努めた。 このようなホーンベックの姿勢が変化したのは、カーターによる1939年の海外視察をめぐってであった。出発前にカーターがハル国務長官への面会を望んだのを受け、ホーンベックはハルにカーターとの会談に時間を割くことを求めた。ホーンベックはカーターをpolitical missionaryと位置づけ、彼の海外視察はアメリカ政府の政策を広報する手段として有用であると見なした。同時に日本、中国、ソ連において大使館とは別の情報チャネルとしたのである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アメリカ主導の自由貿易秩序に日中両国を組み込むという、戦間期の国務省のアジア・太平洋秩序観がアメリカ社会の期待・認識を反映していたことを明らかにすることが本研究の第1の目的である。そのために、アメリカの東アジア政策に関わる人的ネットワークとして最も包括的な非政府組織である太平洋問題調査会(IPR)関係者の認識分析を試みた。 とりあげたのは、知日派とされるジョージ・ブレークスリー、親中派とされるエドワード・カーターである。そして、彼らと政府関係者であるホーンベックがどのような関係を結んでいたのかを分析した。 この結果、カーターら民間団体側が積極的に国務省に情報提供を行っていたことが明らかになると共に、アメリカ主導の貿易秩序を望ましいとする認識を共有していたことが明らかとなった。
|
今後の研究の推進方策 |
イギリスの王立国際問題研究所で収集した史料の分析を進め、IPRおよびカーターをイギリス政府や周辺の知識人がどのように認識していたかを明らかにする。 エドワード・カーターのIPR国際事務局長としての海外視察を中心に、トランスナショナルな知識人ネットワークと各国政府の関係について、研究成果をまとめる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本年度は海外における研究成果発表を2回予定している。 まず、7月にオーストラリアのキャンベラで開催されるJapanese Studies Association of Australiaで「Transnational people's network interconnecting Asia-Pacific major cities: The Institute of Pacific Relations and Japan」のパネルで報告する。(30万円) また、11月にニュージーランドのオークランドで開催される20th New Zealand Asian Studies Society Biennial International Conferenceで報告する予定である。(30万円) 応募時の計画では、平成24年度にオーストラリアでの史料調査を予定していたが、平成25年7月に学会報告のために渡豪する予定となったため、このときに史料調査も合わせて行うこととして、予定を変更した。そのため、平成24年度は渡豪を見合わせ、研究費に残額が生じたが、平成25年度の渡豪の費用としてこれを使用することを計画している。 これらの成果発表に向けて参考文献、史料の収集を行い、英文のネイティヴチェックを依頼する。(20万円)
|