研究課題/領域番号 |
23520791
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
渡邉 純成 東京学芸大学, 教育学部, 助教 (10262221)
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キーワード | 東アジア科学史 / 東西交流 / 満洲語文献学 / 満洲語言語学 / 清代儒教史 / 清朝政治史 / 解剖学 |
研究概要 |
国立公文書館・フランス国立図書館(BNF)所蔵の『洪武要訓』を電子入力し、『明太祖宝訓』との条項対照表を付した校訂本を作成した。『満文日講易経解義』巻一~十二、『満文太上感応篇』巻一~二も電子入力した。順治~雍正年間に清朝政府が翻訳した満洲語儒教文献から作成した電子テキストは、これでテキストファイル5MB強に達し、統計的処理のための堅実な基礎が得られた。 BNFがGallicaで公開している満洲語文献には誤登録が多く、多数の満洲語カトリック書が公開されていることを発見した。『満文聖年広益』全文と『満文盛世芻蕘』巻二とを除くすべてを電子入力した。『満文天主実義』については、ペテルブルク東洋写本研究所所蔵本とBNF所蔵本とを比較した校訂本も作成し、康煕初年に翻訳されたものが康煕年間後半に修訂されたことを解明した。 作成した満洲語カトリック書電子テキストを、本研究代表者がこれまでに作成した満洲語儒教書電子テキスト、および、早田輝洋氏による満洲語白話小説電子テキストと比較した。前者は、終助詞あるいは慣用句の誤用などによって、母語話者が深く関与した後二者から明確に区別される。また、満洲語カトリック書の多くと『満文金瓶梅』のみとが、一般語句に関するある特徴を共有する。これらの発見は、満洲人知識人が満洲語カトリック書には関与しなかったこと、康煕年間のヨーロッパ人イエズス会士の満洲語運用能力には、文法の理解や文体の選択に関して深刻な問題があったことを、強く示唆する。満洲語西洋科学文献との比較では、『格体全録』にはこれらの誤用が存在しないことから、康煕帝など満洲人知識人の深い関与が言語面からも確証された。『満文算法原本』や『満文算法纂要総綱』草稿には誤用が多くみられ、前者に関して「清朝政府が公刊した」と述べるブーヴェの証言への疑問が、またもや増えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新資料を大量に発見したことで、申請時点での研究計画を部分的に変更し、新資料の分析を優先して行なった。予期せざる豊富な成果を得たことで、本研究の主題のひとつである満洲語西洋科学文献の解明に関して著しい進展があった反面、申請時点で本年度に予定していた作業を行なう時間がなくなった。 満洲語西洋科学書を研究する際に、同じく在華イエズス会士が関わった満洲語カトリック書の言語を分析しておくことがある程度有益であることは、当初から予想していたことであるが、資料入手に必要な時間と資金を考えて、本研究の申請時点では割愛していた。ところが、フランス国立図書館が、誤って満洲語史書や満洲語詩文集などの名義で、満洲語カトリック書を大量に公開していることを、本年度当初に発見した。ただちに分析に着手したところ、言語学的観点から豊富な結果が得られ、本研究の主な対象のひとつである『満文算法原本』・『満文算法纂要総綱』・『格体全録』に関して、満洲人知識層の寄与分を推定できるまでにいたった。これは、本研究の最終的な目的のひとつである満洲語西洋科学文献のさまざまな側面を解明する上で、重要な成果であり、また、満洲語西洋科学文献を言語学的観点からも調査する研究が、事実上本研究以外に存在しないことを考慮すれば、必要な作業でもあった。 当初計画で本年度に予定していた、『格体全録』校訂テキストの作成、『満文算法纂要総綱』上編の英訳が進んでいないことは、「遅れている」に該当するが、満洲語カトリック書の組織的な分析を通じて大きな進展があったことは、予定していた作業の遅れを補うものがある。したがって、「やや遅れている」と判定した。
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今後の研究の推進方策 |
『満文古文淵鑑』南宋部分の電子入力を完了させる。また、満洲語の通時的変化に関して、既作成の電子テキストを分析して得られた、いくつかの類義表現の相対出現頻度の時間的変化に関する仮説を検証するために、『満文庭訓格言』など雍正~乾隆年間の満洲語文献を適宜分析し、満洲語科学文献の成立年代の推定を精密化させる。 『満文日講書経解義』全巻とフランス国立図書館所蔵満洲語カトリック文献群について、既作成の電子テキストを、校記や漢文原文との異同対照表などを付加した上で科研費報告書などの形態で印刷・配布し、研究者間での速やかな情報共有を図る。 『格体全録』について、既収集本5種を総合して校訂テキストを作成するとともに、満洲語儒教文献電子テキスト・満洲語カトリック文献電子テキストを参照しつつ、校訂テキストの粗訳を作成する。『西洋薬書』について、言及されている薬品の同定を完了して、和訳を学術誌に公表する。 『満文算法纂要総綱』前半について、英訳を作成し、学術誌に公表する。また、『満文算法纂要総綱』後半などの複製を収集し、電子テキストを作成し言語を定量的に分析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
収集した満洲語文献資料について、電子入力して基本的な整理を加えたうえで排印本を、所有者の了解が得られたものから順次、科研費報告書の形態をとった研究用資料としてとして研究者間に配布することを計画していたが、校訂などの作業に時間が費やされたために、年度末の会計締切に間に合わなくなった。このために発生した剰余が最も大きい。また、研究代表者が昨年度後半にやや体調を崩したため、資料収集旅行を取りやめて、既収集資料の整理と分析に専念した結果、旅費が余ったことの影響もある。 本年度は、『満文日講書経解義』全巻とフランス国立図書館所蔵満洲語カトリック文献群について、校訂作業などを完了させて排印本を印刷し研究者間に配布することを予定している。また、『満文性理真詮提綱』に関して、所有機関の了解が得られ次第、やはり排印本を印刷し研究者間に配布することを予定している。これで、次年度使用額はほぼ消費されるものと見込まれる。本研究が開拓しつつある領域は広範囲にわたるため、得られた課題と情報を研究者間で共有することは、本研究のみならず満洲学・中国学の進展にとっても、有益であると考えられる。 翌年度分として請求した助成金については、当初計画に沿って使用する予定である。
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