『満文古文淵鑑』巻22、巻43~44を電子入力して、全巻のほぼ1/3の電子テキストを作成し終えた。また、フランス国立図書館所蔵『満文太上感応篇』全巻の電子テキストを作成し終えた。 研究代表者が作成した満洲語官修儒教書の電子テキストと、既存の満洲語白話小説の電子テキストとを合わせて、本研究で分析したことで、満洲語の語彙や文法の通時的変化やジャンル依存性が定量的に検出された。たとえば指示副詞ereniは、康煕初年に発生し、康煕20年代後半に定着し、その後は文語的な文体に特徴的な語彙として用いられている。これは、慣用句ere serenggeが口語的であることとは対照的である。動詞否定形が仮定されるときの形態も、官修儒教書では康煕10~20年代に明瞭に変化している。 満洲語カトリック書6種について、校訂テキストを科研費報告書として印刷し配布した。それらを含む満洲語カトリック書について定量的に分析したところ、西欧人の満洲語には官修儒教書で稀な用法が少なからず現れ、文体の相違にも無頓着であって、満洲人の満洲語とは明瞭に区別された。このことは、満洲人知識層にカトリック信者がいなかったことを強く示唆する。カトリック書に特徴的なこれらの誤用や破格は、満洲語西欧数学書には残存しているが、『格体全録』ではみられない。満洲語西欧科学書における旗人の関与程度は、一様ではなかった。西欧人宣教師の清朝宮廷での活動は、翻訳業務と科学業務とが融合した状態から分離した状態へと移ってゆくが、それを可能にした西欧人への満洲語教育の実態も、満洲語西欧科学書に如実に現れていることが判明した。 本研究を通じて、満洲語文献の文体分析、および思想史的研究に必要な満洲語語彙と文法の精密な解明を、定量的に行なうことが可能であることが、あるいは発見され、あるいは確認されて、満洲語古典学の将来の発展のための基礎がかたちづくられた。
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