研究課題/領域番号 |
23520793
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
吉田 厚子 東海大学, 海洋学部, 教授 (50408069)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 日本史 / 文化交流史 / 江戸時代 / 地図・地球儀 / 日蘭 / 日魯 / 国際研究者交流 / オランダ |
研究概要 |
本研究は、19世紀前半の知識人が、日本の北方(北辺・ロシア)に関する地理的情報収集を契機として理解した世界情勢の実態を、日蘭・日魯交流史の視点から把握し、当時得られた情報内容の意義を、文献のみならず製作された地図・地球儀などの器物の分析を通じ、解明することを主たる目的としている。本年度は、その目的実現に向けた研究全体の準備期間に当て、次年度以降の研究作業の基盤の形成を試みた。研究代表者及び連携研究者の具体的な研究実績は、以下の通りである。 研究代表者の吉田厚子は、稲垣家旧蔵の北辺図・世界図及び地球儀や関連文献の全容を解明するために、津市図書館等所蔵関連史料の調査・整理・分類に着手し、それら史料の解析に必要な関連研究文献を国立国会図書館等で調査・蒐集した。また、19世紀前半における海外情報受容の知識系統や北辺・世界地理研究の実態の究明に向けて、当時の知識人の外国語学習について、青木昆陽のオランダ語学習の実態を事例として明らかにし、学会でその成果の一部を公表した。加えて、研究成果を将来的に社会・国民へ発信することを目指すためにも、神戸市立博物館や津山洋学資料館、東京国立博物館で催された関連企画展を巡見した。 一方、連携研究者の吉田忠は、江戸幕府天文方の「世界地図翻訳事業」の詳細を解明するために、蛮書和解御用200周年記念シンポジウムで、関連研究者と議論を深化させた。また、ドイツ、オランダにて資料調査を行い、地図作成に不可欠な天文学知識の進展に関連し、アピアヌス、ゲンマ・フリジウスの天文学、観測器具製作関する基礎文献を調査・収集し、ブラウ、ファン・ケーレン、オッテンスなど17世紀後半から18世紀前半のアトラスについて実物調査し、新井白石がシドッチ尋問に際し利用したブラウの壁掛け地図の背景について調査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、稲垣家旧蔵の北辺図・世界図及び地球儀や関連文献の全容及び19世紀前半における海外情報受容の知識系統や北辺・世界地理研究の実態の解明に向け、研究全体の準備期間に当て、後年度の研究作業の基盤を形成する年度と位置づけていた。 そのために当初計画していた、稲垣家旧蔵の北辺図・世界図及び地球儀や関連文献の調査・整理・分類作業や、それら史料の解析に必要な関連研究文献の調査・蒐集に進展をみた。また、19世紀前半における海外情報受容の知識系統や北辺・世界地理研究の実態の解明に向けた成果として、当時の知識人の外国語学習の実態を、ある人物の事例に即して公にすることもできた。更に、各地で催された関連企画展の巡見は、将来的な研究成果発信の在り方を視野に入れた次年度以降の研究作業の推進方策をかためるための一助となった。加えて、関連器物史料の実物及び基礎文献の調査等も、連携研究者によるオランダ等での研究作業により一定の成果を得られた。 但し今年度予定していた地図・地球儀等器物史料のデータベース化に向けた撮影・画像処理については着手はしたが、ことのほか煩雑な作業を伴いかつコストを要することが判明したため、次年度以降に重点化することとしたので、当初の計画以上とはいかないまでも、おおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本年度に形成された研究作業の基盤を継続・発展させる。具体的には、以下の通りである。 ア)本年度に着手した、次の(1)~(6)の研究作業は着実な積み上げが不可欠なので、次年度も継続し、可能な限り『稲垣家旧蔵北辺図・世界図・地球儀及び関連文献目録』の作成や地図・地球儀等器物史料のデータベース化の実現を目指していく。(1)稲垣家旧蔵の北辺図・世界図及び地球儀や関連文献の全容を解明するための津市図書館等所蔵関連史料の調査・整理・分類。(2)19世紀前半における海外情報受容の知識系統や北辺・世界地理研究の実態を明らかにするための史料分析作業。(3)蒐集した稲垣家史料に関する解析作業を進展させるための蘭書との対比やオランダ側の世界情勢に関する知識の分析検討。(4)地図・地球儀作成の基礎にある天文学やオランダ語・ロシア語に関する専門的知識の提供を受けること。(5)蘆田文庫等をはじめ各地に点在する関連史料や、国内各研究機関等所蔵の解析に必要な関連研究文献の調査・蒐集。(6)成果構築に向けての研究打ち合わせ。 イ)当初は次年度も、オランダ経由で日本の為政者や知識人たちにもたらされたロシア知識等の全容を明らかにするために、研究代表者乃至は連携研究者が、オランダのライデン大学等で現地調査を行う予定であったが、地図・地球儀等器物史料のデータベース化に向けた撮影・画像処理作業に、思いのほかコストがかかることが判明したため、次年度は、その分に計上した経費をこの作業に優先的に充当して推進する。 ウ)当時の知識人たちの世界情報認識の実態の解明や世界地図作成史研究、日蘭・日魯文化交流史研究との関連で、蒐集した史料をさらに分析し、得られた新知見を公表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度も継続して、蒐集した稲垣家史料に関する解析作業を進展させるために要する「洋学史関係図書」を購入し整備していく(200千円)。 また研究代表者及び連携研究者の双方が、稲垣家史料の調査や、各機関に点在している地図等の解析作業に不可欠な関連文献等を調査・蒐集したりするための史料調査旅費、研究代表者と連携研究者・研究協力者の研究打合せ旅費、更には研究代表者・連携研究者の成果発表旅費を計上する(国内旅費:350千円)。 その他、関連史料のデータベース化に向けた基礎作業として専門業者への委託撮影料と、地図等のカラーでの焼き付け及び拡大のための史料複写・焼き付け代に使用の予定である(400千円)。この経費は、当初予定していたオランダへの海外出張旅費を充てる。 加えて、史料蒐集・整理・保存に要する複写代やPC関連消耗品に関わる経費も継続して計上する(50千円)。
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