研究課題/領域番号 |
23520793
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
吉田 厚子 東海大学, 海洋学部, 教授 (50408069)
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キーワード | 日本史 / 文化交流史 / 江戸時代 / 地図・地球儀 / 日蘭 / 日魯 / 国際研究者交流 / オランダ |
研究概要 |
本研究は、19世紀前半の知識人が、日本の北方(北辺・ロシア)に関する地理的情報収集を契機として理解した世界情勢の実態を、日蘭・日魯交流史の視点から把握し、当時得られた情報内容の意義を、文献のみならず製作された地図・地球儀などの器物の分析を通じ、解明することを主たる目的としている。研究期間の中間年度にあたる本年度は、前年度に形成された研究基盤をさらに発展させるための作業を継続した。研究代表者及び連携研究者の具体的な研究実績は、以下の通りである。 研究代表者の吉田厚子は、稲垣家旧蔵の北辺図・世界図及び地球儀や関連文献の全容を解明するために、津市図書館等所蔵関連史料の調査・整理・分類作業を前年度より継続するとともに、新規購入した「洋学史関連図書」や国立国会図書館等で調査・蒐集した研究文献を駆使して、稲垣家史料に関する解析作業を進展させた。その結果として、『稲垣家旧蔵北辺図・世界図・地球儀及び関連文献仮目録』作成に向けた草稿作りにも着手した。また、19世紀前半における海外情報受容の知識系統や北辺・世界地理研究の実態の究明を目指して、当時の知識人が描いた二、三の北方ロシア関係地図を分析した成果を、新日本古地図学会例会における招待講演で公表した。 一方、連携研究者の吉田忠は、当時の知識人の北方認識を知る手がかりとして、稲垣文庫中の北方関係史料を調査し、稲垣定穀自身の随筆『凸頭彙稿』と志筑忠雄訳『羅西亜来歴』に着目し、殊に後者は『魯西亜志附録』という表題でも知られるもので、内閣文庫、静嘉堂文庫、鮎澤文庫(横浜市立大学図書館)蔵の現存写本とテクストの照合をした。また同書はファレンタイン『新旧東インド志』(F. Valentyn, Oud en Nieuw Oost-Indien, 1724)第1巻の記事の翻訳と言われるので、目下この訳書を蘭書原文と対照・分析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は全体の研究期間の中間年度にあたるので、稲垣家旧蔵の北辺図・世界図及び地球儀や関連文献の全容及び19世紀前半における海外情報受容の知識系統や北辺・世界地理研究の実態の解明に向け、前年度に形成された研究作業の基盤を継続・発展させる年度と位置づけていた。 そのために当初より計画していた、稲垣家旧蔵の北辺図・世界図及び地球儀や関連文献の調査・整理・分類作業や、それら史料の解析に必要な関連研究文献の調査・蒐集作業がさらに進展し、『稲垣家旧蔵北辺図・世界図・地球儀及び関連文献仮目録』の草案作成に向けた準備にも着手することができた。また、19世紀前半における海外情報受容の知識系統や北辺・世界地理研究の実態の解明を期した具体的な研究成果として、当時の知識人が描いた二、三の北方ロシア関係地図を分析した知見を公にすることもできた。 但し今年度に重点化することを予定していた、稲垣家旧蔵の地図・地球儀等器物史料及びその関連史料のデータベース化に向けた撮影・画像処理については、対象機関の半年以上にわたる耐震工事や、研究代表者・連携研究者・委託予定の専門業者との日程調整等の都合により、実行に移すことができなかった。そのため、その分の経費を最終年度に繰り越すこととし、特に次年度にこれらの作業を集中的に行うこととした。 以上の理由から、一部作業の遅延があるため、当初の計画以上とはいかないまでも、おおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本研究期間の最終年度にあたるので、二年間にわたって行ってきた研究を更に発展させ、研究全体の総括をする。 そのためには、先ずは、稲垣家旧蔵の北辺図・世界図及び地球儀や関連文献の全容を公にすることを目指して、地図・地球儀等器物史料のデータベース化に向けた撮影・画像処理作業及び分類・整理作業に重点を置き、委託専門業者・連携研究者の協力を仰いで一定の目処をつけられるようにする必要がある。次に、前年度までに蒐集した関連史料を、連携研究者等から専門的知識の提供を受けつつ緻密に解析する作業をさらに進展させ、19世紀前半における知識人たちの海外情報受容の知識系統や北辺・世界地理研究の実態を解明できるようにする。そして、これらの作業を通じて、為政者及び知識人たちの思惟構造の解明や世界地図作成史研究、日蘭・日魯文化交流史研究の新展開にも少しでも貢献できるような成果を具現化させる見込みである。 なお、3年間の研究成果全体の総括を行い、研究成果の一部を、洋学史学会、新日本古地図学会などで発表し、また可能であれば博物館等と連携して、得られた知見を広く共有できるように講演会などの企画を考えたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
最終年度に当たる次年度も継続して、蒐集した稲垣家旧蔵関連史料に関する解析作業を進展させるために要する「洋学史関係図書」を購入し整備していく(300千円)。 また研究代表者及び連携研究者の双方が、津市教育委員会及び津市図書館において稲垣家史料を調査するための旅費や、各機関に点在している地図等の解析作業に不可欠な関連文献等をさらに継続して調査・蒐集したりするための史料調査旅費、研究代表者と連携研究者・研究協力者が研究成果の総括に向けて東京・仙台で打ち合わせをするための旅費、更には研究代表者・連携研究者の成果発表旅費を計上した(国内旅費:600千円)。 その他に次年度は、上記で言及したように、稲垣家旧蔵の関連史料のデータベース化に向けた作業を重点的に行うことを要するため、前年度からの繰り越し分(稲垣家旧蔵の地図・地球儀等器物史料及びその関連史料のデータベース化に向けた撮影・画像処理については、対象機関の半年以上にわたる耐震工事や、研究代表者・連携研究者・委託予定の専門業者との日程調整等の都合により、実行に移すことができなかった。そのため、その分の経費を最終年度に繰り越すこととし、特に次年度にこれらの作業を集中的に行うこととした。)と、次年度計上の当該経費を充当して、専門業者への委託撮影料と、地図等のカラーでの焼き付け及び拡大のための史料複写・焼き付け代として使用する見込みである(600千円)。 加えて、史料蒐集・整理・保存に要する複写代やPC関連消耗品に関わる経費も継続して計上する(30千円)。
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