研究課題/領域番号 |
23520795
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
中西 直樹 龍谷大学, 文学部, 准教授 (20412687)
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キーワード | 仏教史 / 殖民地 / 異文化交流 / 朝鮮 / 台湾 |
研究概要 |
今回採択された研究(2011年度から21013年度)は,戦前期に日本仏教各宗派が行ってきたアジア方面の布教事業の実態を明らかにすべく,関係資料集を収集して刊行することを目的としている。研究開始2年目を終了した時点での研究実績としては,雑誌論文が1件,招待講演が1件,著書が1件であるが,他に発表予定の論文(入稿済)が2件,刊行予定の著書が1件ある。 ところで,今回採択の研究は,前回採択された研究(2007年度から2009年度)と密接な継続性があり,課題名としても「仏教海外開教史の研究」という同一の名称で研究を進めている。このため,今回採択のアジア方面布教の研究は,前回採択のアメリカ方面(ハワイ・北米・南米)での成果を踏まえつつ進行している状況にある。こうした事情から,上述の研究実績のうち,既発表の招待講演1件と著書1件とは,前回採択された研究の実績を基礎として,今回採された択研究の意義と方向性を示したものに過ぎない。これに対して論文3件(発表予定の2件を含む)については,朝鮮における布教事業に関して考察したものであり,今回採択研究の直接的な研究成果といえる。既発表の論文1件は,日本仏教各宗派のなかで最も早く朝鮮進出を果たした真宗大谷派の布教実態を取り上げたものである。その布教活動の背景には,大谷派内の内部対立と朝鮮侵略を目論む明治政府の動きが複雑に関係しており,この点をある程度,明らかにし得たものと考える。残る発表予定の論文2件は,日清戦争から文化政治に至る日本仏教の朝鮮布教を対象としたものである。 また,刊行予定の著書1件は,朝鮮布教に関する資料集『仏教海外開教資料集成』(朝鮮布教編・全7巻)であり,刊行する出版社(三人社)も決定し刊行に向けた作業を進めつつある。資料集の掲載資料もすでに確定し,第一期刊行分(2013年6月予定・全3巻)の解題も脱稿し初校まで終了している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アジア方面における日本仏教の布教活動を対象とする本研究では,当初,朝鮮・台湾・中国についての関係資料を収集して,加えて可能であれば,北方・南洋方面の資料も収集する予定であった。研究成果としても,資料集『仏教海外開教史資料集成』(朝鮮布教編・台湾布教編・中国布教編)を刊行する計画であり,可能であれば,南洋・北方布教編も刊行したいという意図があった。またこれにより,前回採択された際に刊行したハワイ編(全6巻)・北米編(全6巻)・南米編(全3巻)と合せて『仏教海外開教史資料集成』が完結するはずであった。 しかし,朝鮮の関係資料の収集作業を進めていくに従い,日本の植民地支配との関わりのなかで関係資料が多岐にわたり,かつ国内外に分散している状況が次第に明確となってきた。そこで,中途半端かつ性急に資料集刊行の事業を進めるよりも,ひとまず朝鮮における資料の収集と,そこでの布教実態把握に注視し,余力があれば台湾編の資料収集を図ることに方針を転換した。 この結果,『仏教海外開教史資料集成』(朝鮮布教編・全7巻)の掲載資料も確定し,出版社(三人社)も決定した。すでに第1期刊行分の解題も脱稿し,本年度中には刊行できる見込みである。 また日本仏教各派の朝鮮布教への取り組みに関する実態も次第に明確となりつつある。現時点での発表論文は1件のみであるが,すでに研究雑誌に入稿中のものが2件あり,さらに脱稿した論文が別に2件(掲載誌等は未定),執筆中のものが1件ある。これら計6件の論文を収録して『植民地朝鮮と日本仏教(仮題)』として刊行する計画も進めている。日本仏教の朝鮮布教の全体像を明らかにした研究は少なく,資料集と併せて本書が刊行できれば,今後多方面での研究発展に大きく寄与できるものと考えられる。 研究対象を限定したことで,却って当初の計画よりも,充実した成果を出すことができそうな状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
現在刊行を進めつつある『仏教海外開教史資料集成』(朝鮮布教編・全7巻)に関しては,すでに掲載資料が確定している。特に第1期刊行分(2013年6月刊行予定)については,解題の2校を残すのみとなっている。しかし,第2期刊行分(2013年12月刊行予定)については,その解題の執筆に取りかかることができていない状況にあるため,早急に執筆作業に着手する必要がある。そのためには,朝鮮布教の実態を把握するために,戦前期の仏教関係新聞・雑誌から朝鮮布教に関する記事を収集する必要がある。こうして収集した情報の整理を踏まえて,朝鮮布教の実態の把握したい。またそのことを通じて,解題を執筆する予定である。 上記の朝鮮布教編の資料集の刊行事業と並行して,『植民地朝鮮と日本仏教(仮題)』の編集に向けた作業も進めていく。すでに本書に収録する6編の論文のうち5編は執筆を終えているが,残り1編の執筆作業が残されている。本編は日蓮宗の朝鮮布教に関する論文であり,その執筆のための基本資料として,日蓮宗の機関誌『日蓮宗教報』『日宗新報』『法華』『日蓮主義』などを丹念に閲覧して関係記事を収集する。その後に,論文を完成させて本書の編集作業を進めていく予定である。 さらに『仏教海外開教史資料集成』(台湾編)の刊行に向けた作業も進めていきたい。まず,国内外の研究機関,開教使の遺族等から関係資料を収集して,本資料集に掲載する資料を確定する必要がある。同時に各宗派の台湾布教の実態を把握するため,仏教系新聞雑誌,各宗派の機関紙(誌)を丹念に閲覧して,関係記事の複写等を収集する。こうして得られた資料を整理してカード化して日本仏教の台湾布教の実態を把握したい。またそれをもとに解題を執筆する作業に移る予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
まず,朝鮮・台湾の布教活動に関する資料を収集するため,国内の研究機関や布教使遺族に資料調査を行うための出張経費を計上している。出張先に関しては,東京方面・九州方面への出張を数回ずつ計画しているが,現地(朝鮮・台湾)に調査出張を行う必要性が生じた場合は,国内の出張を減らし,他の費目を圧縮するなどして対応したい。現時点で,出張先は未確定な要素も多いために他の費用等とも調整して柔軟に対応する考えである。 また『仏教海外開教史資料集成』(台湾布教編)の刊行にむけて,上記の出張等によって得られた資料を吟味して掲載資料を確定する。そのためには膨大な作業量と時間とを必要とする。また台湾布教の実態を把握して解題を執筆するためには,仏教関係雑誌の関係記事の複写して整理し,情報をデータベース化する作業が必要であり,これにも膨大な作業時間を要することとなる。このため,その補助作業を行うアルバイトを1名を年間を通じて雇用することを予定しており,その人件費も見込んでいる。 さらに上記の作業を進めていくために必要となる複写費用,OA機器・OA用品・消耗品の購入費用,関係機関との連絡のための通信費用などの予算も計上している。加えて,多数の関係資料が古書流通している現状におり,これらのなかには国内の研究機関に全く所蔵されていないものも少なくない。このため古書の購入費用もある程度は見込んでいる。しかし,これに関しても未確定な要素もあるために,他の費用と調整を図るなどして柔軟に対応したいと考えている。
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