研究課題/領域番号 |
23520800
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
堀 裕 東北大学, 文学研究科, 准教授 (50310769)
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キーワード | 讖 / 皇位継承 / 予言 / 未来記 / 聖徳太子 / 宝誌 |
研究概要 |
〔研究のおもな内容〕 讖と皇位継承の研究成果の一部は、8世紀を中心に史学会大会で報告した。報告した内容は、史学会とは別に企画刊行予定の論文集に入稿した。関連して、以下の調査等を実施した。①平安前期の漢詩文における讖に関わる資料収集、②東アジアの讖との関係を調査するため、中国や朝鮮に関する資料調査・収集、③昨年度に引き続き、日本の皇位継承に関わる讖出現の背景にある祖先観を明らかにするため、朝鮮の祖先祭祀に関わる韓国語論文の翻訳、以上三点である。 当該年度から本格的に進展させた讖と聖徳太子信仰の研究成果の一部は、中国仏教史研究会で要旨を報告した。関連して、以下の調査を実施している。①聖徳太子と予言に関する資料収集・整理と論文収集、②叡福寺宝物館が収蔵する伝平安後期出土・聖徳太子未来記の調査と東京大学史料編纂所所蔵の南北朝期の未来記の調査、③東アジアからの影響を考えるため、宝誌信仰や僧侶の往来について資料調査収集、以上の三点である。 〔研究の意義及び重要性〕 東アジアの王位継承と讖の関係を比較するなかで、昨年度に引き続き、日本の特色を明確にすることができた。第一に、皇位継承に関わる日本の讖の出現は、おおむね8世紀に限定されるのであり、それは皇位継承を支える祖先霊や神仏のあり方に対応していること。第二に、孝謙・称徳天皇期の讖文出現における仏教の影響は限定的であること。第三に、中国では頻繁に出現する石の讖文だが、日本では11世紀に出現する聖徳太子未来記になって初めて石製讖文が出現すること。それは、入唐僧・入宋僧などを媒介に、中国文化の影響を受けている可能性が高いことが明らかになってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究目的」において、8世紀日本で出現する文字の奇瑞が、祥瑞ではなく皇位継承と関わる讖文であるということの意味を追求するため、とくに4点の課題を示した。そのなかでも、(1)唐の讖文の影響と在来の思想の顕現との関わりを示すことと、(2)道鏡即位と讖との関係を提示すること、(4)9世紀との相違から、8世紀と9世紀の皇位観の変化を明らかにするという点は、おおむね達成することができた。(なお、番号は「研究目的」作成時のものである) 一方で、「研究目的」の(3)日本と唐等の皇位継承観の相違を考える上で抑えるべき、祖先観については、なお十分な成果を得ていない。この点を踏まえ、研究計画でも示していたように、讖と聖徳太子信仰との関係について研究を進めることで、9世紀以降の東アジアとの交流を踏まえた日本の讖の展開を明らかにしてきた。 当該年度においては、学会等における研究報告を実施するとともに、論文1本を成稿することができたのは、上記の活動の結果である。 以上の点から、おおむね順調に進展していると評価するものである。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、聖徳太子による讖文(聖徳太子未来記)の出現が、東アジアのどのような影響を受けているのかを明確にすることを通して、天皇権威の変化を示す。そのため、日本と唐・宋、新羅・高麗における人と物の交流を具体的に調査していく。とくに、宝誌と聖徳太子に注目する。なぜならば、中国における宝誌信仰は、皇帝権力とも関わるほどの影響をもつことが明らかにされているだけでなく、聖徳太子と宝誌はともに観音の化身とされ、予言も行うなど共通点が多い。また、日本の僧侶はしばしば宝誌関連の物や情報を請来されていることが知られる資料的にも豊富である。 第二に、課題としている東アジアにおける祖先祭祀、とくに祖先神の比較検討も並行して進める。「研究目的」でも示したように、祖先祭祀のあり方は、皇位継承や王権に関わる讖文出現に関係すると予測されるからである。 以上二つの点を中心に研究をすすめ、その成果をすみやかに公表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
東アジアの祖先祭祀の比較を行うために、日本・唐・新羅の比較検討を行うための史料と研究を調査収集する。とくに、韓国語論文の翻訳を継続して実施する。なお、これまでの翻訳者が今年度は翻訳にあたれないので、業者に依頼する。 また、聖徳太子による讖については、多量にある聖徳太子の伝記などの資料調査を継続して実施するとともに、宝誌信仰に関する資料調査に重点を置くこととする。宝誌に関する資料調査を実施するため、金沢文庫への調査を予定している。なお、謝金は、おもに聖徳太子関連資料の整理にあてる。
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