研究課題
江戸幕政における三大改革について、商業資本の浸透による武家の窮乏化を、相対済ましや棄捐など債務破棄の強引な手段で押しとどめようとした守旧的な政策であるという通説を覆し、武家の窮乏は「金銀不融通」という市場の停滞を引き起こして商人の窮乏をも招くというミクロ経済学の構図で全体をとらえ直すことが申請書に掲げた本研究の目的である。その目的を達成するために、幕府と商人の利害が斬り結ぶ焦点である貨幣改鋳に着目し、幕府による貨幣改鋳政策は、従来の通説のような赤字補填のための改鋳益獲得が目的ではなく、放置しておくとどんどん退蔵されてしまう貨幣を商人の蔵から引きずり出し市場に回転させるため、定期的に改鋳して旧貨幣を無効化することで退蔵を防ごうという、いわばリニューアル作戦であったという新説を導いた。さらに政策担当者が具体的にどのように政策を立案し、議論し調整して実施に踏み切るに至ったかという政策決定プロセスについて解明することに焦点をあて、棄捐令と町会所設立という2つの大きな政策について、松平定信率いる「チーム定信」という4名の奉行集団が闊達な意見交換と実地踏査を重ねつつ、紆余曲折の末に大きな経済政策を成功させるに至るプロセスを解明した。最終年度には次の研究テーマへつながる発展として、江戸の商人集団の特性という新たな分野へと研究を拡張することができた。『江戸商家・商人名データ総覧』全7巻という大部の資料集をもとに、江戸の商人の業態について、資料上確認できる全ての個別情報をデータベース化して計量的に分析するという、従来試みられなかった新しい手法で斬り込んでみたところ、三井という大商人にのみ依拠して構築されてきた通説を覆す道が見えてきたのである。引き続いて取得できた基盤研究C「江戸商人の業態の計量分析と公儀との関係性」において、この論点をより深めてゆく予定である。
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Department of Social Engineering, TITECH Discussion Paper Series
巻: 2013-12 ページ: 1-15