研究課題/領域番号 |
23520805
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
安田 次郎 お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 教授 (60126191)
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研究分担者 |
末柄 豊 東京大学, 史料編さん所, 准教授 (70251478)
前川 祐一郎 東京大学, 史料編さん所, 助教 (00292798)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 寺院 / 興福寺 / 室町幕府 / 尋尊 / 紙背文書 / 大乗院 |
研究概要 |
初年度の23年度は、貴族社会や寺院社会をひろく見渡すような研究を意識して行った。代表者の安田は、興福寺に関する重要史料のひとつである大乗院尋尊の『大乗院寺社雑事記』を素材として、前代の門跡であった経覚との関係や、尋尊の後継者との関係などを解明した。そのことによって、摂関家、将軍家、門跡などをめぐる「人のつながり」が浮かび上がった。また興福寺の最大の法会である維摩会を対象とした研究を行い、芸能を通じた「人のつながり」についても新しい見通しを得ることに成功した。 研究分担者の末柄は、大覚寺、花頂門跡、春日社に関わる史料の基礎的な研究を推進し、とくに花頂門跡に関しては、従来ほとんど知られていなかった同門跡と花山院家や円満院門跡との関係を明らかにし、さらに応仁・文明乱後の三者の関係の変容についても解明し、本科研による研究として発表した。 前川(研究分担者)は室町幕府、大名、地方武士などと南都との「人のつながり」について調査を進めた。 研究代表者と分担者は、定期的に東大史料編纂所においてそれぞれの成果を持ち寄り、意見交換を行い、研究の進め方を含めて密に連絡を取り合った。 代表者、分担者、連携者の全員が京都府立大学文学部に集合して行う福智院家文書の調査は、所蔵者のご事情で日程調整が厳しかったことにより、23年度は一度しか行うことができなかった。2011年2月3日から6日にかけて原本を借りだし、同大学院生の助力も得て調査、研究を行い、とくに冊子本の紙背文書の読解に努め、多くの新知見を得ることができた。近い将来、それらを学界に提供できる目処がついた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではつぎの諸点に関してまず具体的な作業を行うことを計画していた。すなわち、(1)大乗院門跡を中心に、南都の僧とその実家、兄弟姉妹らとの関係の解明。 (2)「養子」「猶子」として寺院社会に入ることの意味、役割の解明。 (3)室町幕府の将軍や有力者と寺院社会の中下級の構成員との結びつきの解明。 (4)贈答やものの貸し借りを通じて「越境する」「人のつながり」の解明。 (1)に関しては従来からの蓄積もあり、きわめて順調に進んでいる。尋尊と一条家、兼良の子どもたち、尋尊と兄弟姉妹たち、経覚と九条家などの関係が次第に明らかになってきている。(2)は事例収集の段階にあるが、「養子」「猶子」にいたる事情は単純ではなく、いくつかの理由があるらしいことが判明してきた。したがって、「将軍の猶子」であっても、「猶子を通じた宗教界の統制」が将軍の目的であるなどという単純な理解は成立し難いように思われる。今後、いっそうの事例収集に努め、あわせて背後に隠されている事情の解明を試みていく。 (3)についても事例収集の段階である。なんらかの形で利権が絡んでることは間違いないと思われるが、室町幕府財政のあり方が関係してくる話なので、その方面の先行研究も今後は調査し、検討をしていくことが必要であろう。(4)もまた事例収集の段階である。ここでも『大乗院寺社雑事記』や福智院家文書中の紙背文書の果たす役割は大きい。 総じて事例収集の段階にあるものの、それはほぼ計画通りであり、したがって順調に進展しているといえよう。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の成果を引き継ぎ、研究代表者と分担者と連携者とがそれぞれの分担を踏まえた研究をいっそう進めていく。とくに、初年度に得られた成果を逐次学会誌や学術図書に発表していくことをそれぞれが心掛ける。 そのような個人別の研究と並行して、よりいっそう相互の連携を密にして成果を持ち寄り、本研究をトータルとして推進していく。 研究費の繰り越しが生じた理由は、京都への資料収集調査が一回しか行えなかったこと、紙焼きの形での収集を予定していた資史料が、紙焼き用紙の国内における生産中止という予想外の事態が生じたために、マイクロフィルムの形での収集に変更せざるを得なかったことなどが原因である。 来年度は、京都府立大学での福智院家文書の調査をせめて二回、行いたいと考えている。所蔵者のご都合を考慮しつつ、いっそうの日程調整に努めて複数回の原本調査を実現したい。紙焼きの形で収集予定だった資史料は、引き続き来年度もマイクロフィルムの形での収集にならざるをえないが、マイクロフィルムはやや利用しにくい反面、安価なのでより多くのものが収集できそうである。その点では利点もあるといえる。 各自の研究の公表、一層の連携と個別成果の総合、それに文書の原本調査を軸として来年度の研究を推進していく計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
京都府立大学での文書原本調査を複数回、行う。平行して国立公文書館などに所蔵されている資史料をマイクロフィルムなどの形で収集する。それらのための旅費、物品費、複写費が大きな比重を占める。さらに、史料の収集、整理の補助を依頼する院生への謝金も若干かかると予想している。その他、細かな文具費などが必要となる見通しである。
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