研究課題/領域番号 |
23520811
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研究機関 | 京都教育大学 |
研究代表者 |
吉江 崇 京都教育大学, 教育学部, 准教授 (50362570)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 日本古代史 / 史料学 / 家 / 現地調査 / 荘園 |
研究概要 |
本研究の目的は、京都大学総合博物館が所蔵する勧修寺家本『御遺言条々』なる書物を基軸に据え、そこから読み取れる財の継承という観点から、古代・中世移行期における「家」の成立過程を明らかにすることにある。こうした目的のもと、本研究では、(1)『御遺言条々』の翻刻と書誌学的検討、(2)勧修寺家所領の現地比定と現況調査、(3)勧修寺家の文書・記録の伝来・継承に関する検討、(4)家財継承の歴史的変遷に関する考察、の4点の課題を設定しているが、初年度にあたる平成23年度には、このうちの(1)と(2)に関する作業を重点的に行った。 (1)は、『御遺言条々』の唯一の翻刻といえる戦前の中村直勝氏による翻刻を見直そうというものである。当該年度は、中村氏の翻刻をパソコン上でデータ化した上で、写真帳と照らし合わせながら、誤読などの修正を行った。中村氏の翻刻と大きな違いは生じなかったものの、いくつかの点で釈読を訂正できた箇所が存在する。 (2)は、『御遺言条々』に記された勧修寺家領の現況を調査し、勧修寺家領の立地を検討することに課題がある。本年度においては、伯耆国稲積荘の跡地を訪れ、実地調査を行った。稲積荘は、現在の鳥取県倉吉市上米積・下米積地域に比定できる荘園だが、伯耆国の国衙跡や国分寺跡と指呼の地に所在するという点に特徴があり、四王寺山から南に延びる丘陵と国府川に挟まれた平地部には、現在でも田地が設けられていること、また、上米積地区には賀茂別雷神を祀る上米積神社が鎮座し、この地域が上賀茂社と密接な関係にあったことを現地で確認できた。現地調査のできた荘園はこれのみであったが、今後の調査基盤を整えるという意味合いから、勧修寺家領を取り上げた先行研究の収集も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究の目的」および「研究実績の概要」にも記したごとく、平成23年度には、(1)『御遺言条々』の翻刻と書誌学的検討、(2)勧修寺家所領の現地比定と現況調査、の2点の作業を重点的に行うという計画を立て、その作業を遂行した。(1)に関しては、当初の予定通り、書誌学的検討以外の翻刻作業を終わらせることができ、(2)に関しても、資料の整理と現況調査を実施することができた。そのため、「研究の目的」の内容については、おおむね順調に進展しているものと考える。しかし、(2)に関しては、当初、3カ所程度の現況調査を予定していたものの、1カ所の荘園しか調査を行えず、今後、いっそう精力的に取り組む必要を感じる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、(1)『御遺言条々』の翻刻と書誌学的検討、(2)勧修寺家所領の現地比定と現況調査、(3)勧修寺家の文書・記録の伝来・継承に関する検討、(4)家財継承の歴史的変遷に関する考察、の4点の課題を設定している。平成23年度には、(1)のうちの翻刻に関する作業、(2)の現況調査を行ったが、2年目にあたる平成24年度には、(1)のうちの書誌学的検討に着手するとともに、(2)についても継続的に作業を遂行し、(3)の調査も開始することとする。そして、最終年度にあたる平成25年度には、(1)(2)(3)の不備を補いながら(4)の考察を進め、報告書を作成する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究の2年目にあたる平成24年度には、上述した4点の課題のうちの、(1)(2)(3)を行う予定でいるが、特に(2)勧修寺家所領の現地比定と現況調査、に重点をおき、3~5カ所の勧修寺家領の現地調査を行うつもりである。研究費では、そのための旅費を計上している。勧修寺家領は30カ所程度の所領が記載されていることから、現況調査を全ての荘園で行うことは難しい。そのため、勧修寺家領の特徴を見いだせるような荘園に対象を絞り、効率のよい調査を模索したい。 また、平成24年度は、(1)『御遺言条々』の翻刻と書誌学的検討のうちの書誌学的検討、(3)勧修寺家の文書・記録の伝来・継承に関する検討、にも着手する。前者については、写真帳だけではなく、原本調査を行うこととする。後者については、特に吉田資経の日記である「自暦」の写本調査を行い、それを通じて、勧修寺家の記録の継承について考察する予定である。研究費では、その準備作業のためのアルバイト謝金を計上している。
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