研究課題/領域番号 |
23520811
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研究機関 | 京都教育大学 |
研究代表者 |
吉江 崇 京都教育大学, 教育学部, 准教授 (50362570)
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キーワード | 日本古代史 / 史料学 / 家 / 宮廷社会 / 荘園 |
研究概要 |
本研究の目的は、京都大学総合博物館が所蔵する勧修寺家本『御遺言条々』なる書物を基軸に据え、そこから読み取れる財の継承という観点から、古代・中世移行期における「家」の成立過程を明らかにすることにある。こうした目的のもと、本研究では、(1)『御遺言条々』の翻刻と書誌学的検討、(2)勧修寺家所領の現地比定と現況調査、(3)勧修寺家の文書・記録の伝来・継承に関する検討、(4)家財継承の歴史的変遷に関する考察、の4点の課題を設定している。2年目にあたる平成24年度には、前年度に引き続き(1)と(2)に関する作業を重点的に行った。 (1)は、『御遺言条々』の唯一の翻刻といえる戦前の中村直勝氏による翻刻を見直そうというもので、前年度においては、中村氏の翻刻をパソコン上でデータ化した上で、写真帳と照らし合わせながら誤読などの修正を行った。当該年度には、研究協力者との研究会を数回にわたって開催し、より正確な翻刻となるようにつとめた。 (2)は、『御遺言条々』に記された勧修寺家領の現況を調査し、勧修寺家領の立地を検討することに課題がある。当該年度においては、摂津国小林荘、河内国高瀬荘、伊勢国和田荘、安房国郡房荘、下総国千葉荘、近江国湯次荘、美濃国平田荘、越後国坂北荘、加賀国井家荘・小坂荘、安芸国可部荘・志芳荘・能美荘の合計13荘園の跡地を訪れ、その現況調査を行った。なかでも、伊勢国和田荘と近江国湯次荘は、藤原経房以来の勧修寺家の根本的な大規模荘園ということができ、その調査成果については、口頭発表という形で公表した。また、戦国時代において、年貢の安定的確保を目的として当主が移住するなど勧修寺家の経営基盤となった加賀国井家荘については、研究協力者4名とともに現地を訪れ、地形などを観察・検討しながら荘園全体の踏査を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究の目的」および「研究実績の概要」において記したごとく、本研究においては(1)『御遺言条々』の翻刻と書誌学的検討、(2)勧修寺家所領の現地比定と現況調査、(3)勧修寺家の文書・記録の伝来・継承に関する検討、(4)家財継承の歴史的変遷に関する考察、の4つの課題を設定している。平成23年度・24年度の2ヶ年で主に研究を進めてきたのは(1)(2)の課題についてであり、24年度に着手する予定であった(3)(4)については、十分に進められている状況とはいえない。それゆえ、現時点での達成度としては、「やや遅れている」と判断した。 研究が遅れている理由は、(2)の課題に予想以上に多大な時間が割かれていること、(1)の課題を進める中で本研究に寄与するような無視できない資料が発見されたことにあり、達成度が「やや遅れている」とはいえ、(1)(2)の課題で大きな成果を上げつつあることも事実である。本研究において、(3)(4)の課題は(1)(2)の検討成果の上にある。そのことを考えると、最終年度にあたる平成25年度においては、(3)(4)の研究の進め方を縮小も視野に置きながら検討し直し、同時に(1)(2)の課題をさらに進展させる必要があるものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、(1)『御遺言条々』の翻刻と書誌学的検討、(2)勧修寺家所領の現地比定と現況調査、(3)勧修寺家の文書・記録の伝来・継承に関する検討、(4)家財継承の歴史的変遷に関する考察、の4点の課題を設定している。平成23年度・24年度には、(1)(2)を中心に研究を遂行してきたが、そのなかで、本研究に寄与すると思われる重要な資料を発見した。最終年度にあたる平成25年度には、この新発見の資料に関して原本調査および翻刻を行って(1)(2)の不備を補い、また(3)(4)についても見通しをつける形で報告書を作成しようと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
最終年度にあたる平成25年度においては、報告書を作成したいと考えているため、印刷費を平成23年度・24年度よりも多く計上している。また、資料調査を行うための研究補助者に対する謝金、および荘園の現況調査を継続して行うための旅費を計上しており、いずれも本研究を遂行する上で不可欠なものと考える。
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