本研究の目的は、京都大学総合博物館が所蔵する勧修寺家本『御遺言条々』なる書物を基軸に据え、そこから読み取れる財の継承という観点から、古代・中世移行期における「家」の成立過程を明らかにすることにある。こうした目的のもと、本研究では、(1)『御遺言条々』の翻刻と書誌学的検討、(2)勧修寺家所領の現地比定と現況調査、(3)勧修寺家の文書・記録の伝来・継承に関する検討、(4)家財継承の歴史的変遷に関する考察、の4点の課題を設定している。最終年度にあたる平成25年度においては、これまで遂行してきた研究について、その不備を補足するような調査を行うとともに、特に(1)と(2)の成果を中心として、成果報告書を作成して刊行した。 調査としては、(2)に関するものとして、尾張国朝日中郷荘・大野荘、美濃国生櫛上切、周防国安下荘・石国荘、紀伊国平田荘、淡路国賀集荘・福良荘・西山荘の合計9荘園の現地調査を行った。(2)は、『御遺言条々』に記された勧修寺家領の現況を調査し、勧修寺家領の立地を検討することを課題としているが、3年間の研究期間で現地調査を終えることができた所領は23荘園にのぼる。ただし、これは『御遺言条々』が記す勧修寺家領の3分の1に過ぎず、勧修寺家領の総合的理解は、未調査の3分の2の所領の現況調査を踏まえて行う必要があるだろう。 (1)に関しては、京都大学総合博物館に所蔵されている原本について調査を実施し、『御遺言条々』の形状と構成、その成立時期の2点を中心に考察を行った。その結果、本書に含まれる文書の配列については、家内文書→公験文書→その他というような明確な方針で配列されていることが判明した。また、成立時期に関しては、元徳2年(1330)ごろに勧修寺経顕がまとめ、その後、応安6年(1373)ごろに勧修寺経方によって追記されたとの結論を得た。これらについては、口頭発表を行うとともに、刊行した成果報告書の中でも記し、公表した。
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