課題研究の最終年度にあたる今年度は、研究の総括を視野にいれつつ、総括すべき課題と、継続すべき課題との峻別を図りながら研究に従事した。前者については10世紀以後の国内交通体系についての国司の権限と責務について整理をおこなうとともに、その具体的な執行の様子を確認する作業を進めた。その結果、従来の記録(日記)等では確認が困難であった国司の国内交通への関与がうかがわれる史料を半井本『医心方』裏文書のうちに見いだし、その具体的な政務として在庁官人ないしは郡司にたいする宿泊施設の確保と乗用馬・荷駄馬の調達等の指示が命じられたのではないかという見通しをえた。その指示こそが駅家雑事の内容であったと考えた。 こうした政務運営を具体的に確認するために、鎌倉時代の古記録や、国立公文書館所蔵の「礼儀類典」にみえる公卿勅使などの事例を収集し、そのシステムについて活字化の前提としての学会報告をおこなった。 駅家跡ないしは宿跡など、「供給」が体現されたことをしめす遺跡・遺構についてのデータを収集する「考古学的資料収集」については、前年度の報告にも記したように、全体的に情報が断片的であり、かつ調査主体がその後の調査や整理を進展させて遺跡・遺構の歴史的把握を深化しえていないという状況が顕著であったため、具体的な論の展開は断念せざるをえなかった。駅家跡と断定しうる遺跡と、中世初期の「宿」的性格を想定できる遺跡が報告されている地域が分離しており、直接的な継続・踏襲の事例確認にはいたらなかった。こうした状況をふまえ、このような非連続性は、古代から中世への転換のなかで、径路自体が変更となったことによるものなのか否かの見通しだけは確立しておきたいという意図から、整理をおこなった。その結果、基本的には踏襲の方向で考えるべきであるという立場での成文化の前提として学会報告をおこなった。
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