最終年度となる平成25年度は主に「朝鮮出兵」関係文献目録の編集を行った。調査の成果として実見し収集してきた文献については各年度でにまとめていたが、25年度は明治期から昭和戦前期に国内、朝鮮半島で刊行された著作・論文の網羅的把握を意図して国会 図書館の本館および関西館、東京大学史料編纂所等に出向いて最終的な調査を実施し、「昭和戦前期にいたる「朝鮮出兵」関係文献目録(稿)」(九州大学九州文化史研究所紀要第57号)としてまとめた。 調査を進める過程で、地誌や朝鮮半島の旅行案内本などにも「朝鮮出兵」関連の豊富な記事が存在すると判明した。「朝鮮出兵」という史実が植民地期の朝鮮半島でどのように広がり、浸透したのかという課題を究明する格好の素材となる。 「朝鮮出兵」の記憶と記録化に関わる一連の調査・研究と併行して、「朝鮮出兵」自体の史実解明にも成果をあげた。いずれも 商業出版ではあるが、それらの成果は「豊臣政権論」(岩波講座『日本歴史』近世1)と「黒田官兵衛と朝鮮出兵」(『黒田官兵衛』、宮帯出版社)とにまとめている。前者は豊臣政権の全体像を描出し、そこでの「朝鮮出兵」の位置づけを試みている。また、後者は黒田孝高(官兵衛、如水)という一大名の視座から「朝鮮出兵」の実態に迫ったものである。新資料の発見 もあり、黒田孝高が朝鮮人子女を自らの領国である豊前中津に連れ戻った史実等を明らかにした。 本科研によって「朝鮮出兵」の史実をより豊かなものとすることができた。また、「朝鮮出兵」の記憶と記録化という課題についても、検討対象となる多くの文献を入手した。近代日本がおこなった韓国併合 は、秀吉以来の宿願達成というような文脈で語られてきたが、諸々の文献を時間軸に沿って時代背景を念頭に読み込んでいくことで、そうした 概括的理解を超えた歴史理解が可能となった。
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