研究課題/領域番号 |
23520825
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研究機関 | 東北学院大学 |
研究代表者 |
菊池 慶子 (柳谷 慶子) 東北学院大学, 文学部, 教授 (00258782)
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キーワード | 奥女中 / 奥向の職制 / 乳母 / 奥向の儀礼 / 女使 / 正室と側室 |
研究概要 |
本研究は、近世大名家の政治を支えた女性の役割を明らかにするために、大名家族の女性、および奥女中となった女性たちのライフサイクルの全体に着眼し、女性の出自、出仕、職務と職責、昇進とその経緯、引退および家の創設に至る実態的な動向を捉えることを目的としている。近年、大名家に伝来する奥向関係史料の調査が進む中、未着手となっている東北諸藩の奥向関係史料の調査と検討を行うことにより、今後の奥向研究の推進に寄与することを眼目とするものでもある。課題3年目に入った25年度は、自治体史資料編等に翻刻されている関係史料について補足的に調査、収集を行い、古文書の調査と収集は秋田県公文書館、岩手県立図書館、宮城県立図書館、仙台市博物館など諸機関で進めた。大名家奥向史料は冠婚葬祭、儀礼に関するものが多く伝来することは従来指摘されている通りであるが、子女の出生と養育に関係する史料群の検討を通して、この任務を負う奥女中および乳母の採用状況、人員確保の困難に直面する大名家の姿が捉えられ、時代の推移とともに変化する様相も明らかになった。こうした発見は当年度の成果の一つである。 一方、これまで収集した史料の分析を進め、論文として①「大名家『女使』の任務―仙台藩伊逹家を中心に」、②「大名正室の領国下向と奥向」、辞典項目として「藩の奥女中」を執筆した。奥女中がその職務を通じてキャリアを形成する経緯、儀礼贈答を中心とする大名家と将軍家、および親族間交際において消息文の作成など具体的に携わった仕事の中身、生母となり奥女中から側室に上った女性が藩主の教育や奥向人事に発言する姿などが判明し、これらの成果を「武家女性の旅とその記録―一関藩田村家宣寿院のお国入り」(一関市博物館)、「伊達家奥方の女性と藩政」(仙台市立博物館)、「秋田藩政と奥向」(秋田県生涯学習センター)と題して、地域の歴史講座で公開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①奥向関係史料の調査と写真撮影・複写等による収集については、秋田県公文書館、岩手県立図書館、宮城県図書館、東北学院大学図書館等でほぼ予定通り作業を終えた。また全国の自治体史資料集が開架で並べられている都立中央図書館で東北各県の関係史料を中心に未収集であったものを調査し、併せて他県の目録を点検した。秋田藩・盛岡藩の関係史料について調査の最終段階であらたなものが見出されたため、次年度に補充調査を続行する必要がある。 ②収集した史料のうち仙台藩「奥方日記」は分量・内容ともに奥女中のキャリアを考察するのに格好の史料であり、アルバイトを導入し解読作業を進めている。全体の半分強まで作業を終えており、当研究の期間中に全体を翻刻する見通しがついた。 ③3年間で収集した史料の分析により知られた事実をもとに論文2本を作成し、また市民講座において仙台藩伊逹家、一関藩田村家、秋田藩佐竹家の奥女中奉公を取り上げライフサイクルを考察する機会を持った。 なお、この3年間で収集した史料のリストを作成しデータベース入力を行う必要があるが、これについては未着手であり、次年度の作業となる。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の最終年度にあたる平成26年度は過去3年間の研究成果の総括を行う作業を進める。伝来が確認され収集した史料のデータベース入力、未収集史料の点検と収集作業、解読を継続中の仙台藩「奥方日記」のアルバイトによる解読続行、奥女中関係の研究データベースの作成などを進め、さらに収集史料の分析と検討をおこない、報告書の作成にあたる。 東北諸藩の奥向関係史料については、この3年間でとくに秋田藩、八戸藩で多くの史料を見出しており、奥女中の具体的な任務、職制と昇進経緯、家の創設などについて、あらたな史実を捉えることになったが、秋田藩・盛岡藩については未収集の史料が残っており、また現時点で磐城平藩内藤家に関係史料が伝来することがわかったので、補充調査を行い収集を進める。収集史料のリストをつくりデータベースを作成することで今後の武家奥向研究の推進に寄与するものとしたい。仙台藩「奥方日記」については解読文を原文と照合して解読の精度をあげる必要もある。これらの作業と併せてテーマに基づく分析・検討を進め、その成果を研究報告、市民対象の歴史講座等でひろく公表する機会ももつ。
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次年度の研究費の使用計画 |
当年度予算60万円は当初、物品費(図書購入)に32万円、旅費に15万円、人件費に8万円、その他経費5万円の計画を立てており、このうち「その他経費」を除く項目の支出については、若干の増額が生じた程度であるが、「その他経費」は予算5万円に対して、実際の支出が7600円と大きく減額となり、その結果、全体で19,963円の残額が生じた。「その他経費」は主に史料の複写代金とするものであったが、当年度は多くの史料をデジタルカメラでの撮影で入手し、また国会図書館、公文書館で入手を必要とした史料についても画像をCDに複写したことで複写・印刷は行わなかった。こうして生じた残額を当年度の会計期限までに失念していたことが繰り越すことになった要因である。 当年度予算50万円に対して1万9963円の繰り越しが生じた。これを含めて、物品費(図書、文具)に12万円、旅費(調査出張)に13万8693円、人件費(史料解読、データベース作成アルバイト)に14万円、その他(報告書の作成、複写代)に12万円の支出として本計画を実施する。
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