本研究では夏に研究代表者・連携研究者を含む8人ほどが参加して現地で合宿調査を実施した(3泊4日×3回)。調査対象は大船渡市三陸町綾里の千田基久兵衛家で、主として同家の江戸時代以来の未調査古文書の撮影を行った。撮影した画像総数は70214コマでこれにより同家文書の全点撮影が完了した。そこから基礎史料を翻刻し105頁(A4版)の翻刻史料集を作成した。また撮影された古文書画像データを用いて、年度末の春期に1泊2日規模の研究報告会を合計3回実施し、現地調査に参加したメンバーによる研究報告と討論を行なった。最終年度の8月の現地調査の際には千田家の座敷において地域住民向けの調査成果の報告会を実施し、地域住民30名ほどの参加を得た。 これらの研究から明らかになったことは、当地に大規模家経営体が立地しえたのは、その組織と力量によって地域の海山の豊富な天然資源を開発しえたからであり、とくに両者の資源を連関させ相互の開発を促進するしくみを創出保持しえたことによることが分かってきた。また大規模家経営体は辺境な地理的環境にありながら海運業や遠洋漁業をとおして広い地域との交流関係をもち、所有船などの輸送手段を介して遠隔地とも直接通交する力をもっていた。これにより最新の技術や文化を地域社会にもたらす窓口になっていたことも明らかになってきた。 なお千田家は東日本大震災津波で床上浸水の被害を蒙った。被災状況の調査(写真と聞き取り)により、歴史的な存在たる大規模家経営体が今時の大震災下で強い抵抗力、復元力を発揮し地域社会の存続に寄与したことが明らかになった。その地域ネットワークも災害支援に大きな力を発揮しており、危機の下での地域社会の存続、その後の共同体再建へについても様々な示唆に富む研究成果となった。
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